トライボコーティング技術研究会(大森 整会長)、未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会は「第6回 岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)」を発表、優秀賞に業績名「マイクロ・ナノスケール三次元DLCコーティング:膜特性の評価およびプラズマ挙動解析」で崔 埈豪氏(東京大学)、「X線/EUV光学素子開発に適用できる高精度・高平滑多層膜コーティング技術開発とそれを利用した材料・微細構造分析用標準試料の開発」で竹中久貴氏(トヤマ)の2件が受賞した。
崔氏は、マイクロ・ナノスケールの三次元部材にバイポーラ型PBII(プラズマ利用イオン注入成膜)法を用いてDLC成膜を行い膜の特性を評価、その膜構造・膜質に関する新しい知見を得た。知見に基づき、エンジン部品の内面摺動部やマイクロギヤなどでの低摩擦・高耐久性の付与や、化学プラントの配管内面などでの耐腐食性の付与、ナノインプリントリソグラフィー用金型での離型性の付与など、今後の適用の可能性が評価されての受賞となった。
竹中氏は、マグネトロン・スパッタリングによる平滑極薄層の形成技術や高精度周期構造の形成技術、面内および深さ方向に任意位置で希望膜厚の薄膜を形成する技術、面内への任意希望厚みの薄膜形成技術を確立したことで、X線/EUV光学素子やデルタドープ多層膜標準試料、AFM探針形状評価試料などを開発、すでにEUVリソグラフィー用多層膜ミラーやAFMプローブチップキャラクタラーザなど様々な実用化につながっていることや、今後も多層膜型素子を利用した分析装置などの開発への応用が見込まれることが評価されての受賞となった。
また事業賞には「医工学連携大学発ベンチャーによる国産冠動脈用DLCコートステントの開発と事業化」で山下修蔵氏(日本ステントテクノロジー)・中谷達行氏(トーヨーエイテック)・窪田真一郎氏(岡山県工業技術センター)がそれぞれ輝いた。山下氏らは、長さ方向の柔軟性と半径方向の剛性を両立することで患部に挿入しやすく血管内壁への刺激を軽減する全リンク型ステントを開発した。Co-Cr合金製チューブから微細な網目形状を切り出すためのレーザー切断技術や、切断面に付着したバリや酸化物を除去するクリーニング技術、エッジを除去しステント全面を滑らかにするための電解研磨技術という精密加工技術と、ステントの拡張/変形に耐えて剥離することなく生体適合性被膜を保持するナノレベル厚のフレキシブルDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング技術によって、長期的な安全性・生体適合性を実現し再狭窄を防止する。このDLCステントをはじめ、医工連携ネットワークによる国産医療機器の開発促進とともに存在感を高めるビジネスモデルが期待されての受賞となった。
岩木賞は表面改質、トライボコーティング分野で多大な業績を上げた故・岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業を讃え、当該技術分野と関連分野での著しい業績を顕彰するもので、トライボコーティング技術研究会が提唱し2008年度に創設、2011年度(第4回)からは未来生産システム学協会(NPS)が表彰事業を行っている。優秀賞は開発技術が日本国内で高い水準にあり、新規独創性に優れたもので、かつ実用化されており社会的貢献が認められるものに対し、事業賞は事業化技術または事業/ビジネスモデル、サービスなどが当該業界において影響力を有し、当該業界の知名度を上げる、インフラの構築を行う、社会生活に恩恵をもたらすなどの効果を通して、活性化、発展に貢献を成し、波及効果を生むといった活動の成果、努力が認められるものに対し贈られる。
贈呈式と受賞業績の記念講演は、2014年2月28日に理化学研究所・和光研究所で開催される「シンポジウム:第16回トライボコーティングの現状と将来」で行われる予定。