膜創成の基本構成単位をμmサイズの粉末粒子とし、高い成膜速度や厚膜形成能を特徴とする表面改質の代表格として「溶射法」がある。この技術は、特に数μm以上の厚膜の創成を守備範囲とし、原子を基本構成単位とし、数μm以下の薄膜を創成するCVD法やPVD法などとは異なり、独自の膜創成領域を形成することから各種産業分野で基幹技術として適用されている。
次々と開発される新規機能性材料の厚膜創成を考える場合に、既存の溶射法における粒子の溶融は、設計調質されたナノ組織や材料の有する機能性を劣化、消失させる可能性が極めて高いという。そこで、その克服を目指し本技術分野では、非溶融固相粒子の積層による新しい膜創成の方向性が模索されつつある。その代表が、コールドスプレー(CD)法、ウォームスプレー(WS)法およびエアロゾルデポジション(AD)法である。
溶射法を含むこれら新旧プロセスは、総じて膜創成の基本構成単位をμmサイズの粉末粒子とする点で共通であることから、本書では、これらプロセスの全体を俯瞰し、粒子積層による膜創成のための新コーティング技術の学理解明、および技術確立に向けた取り組みの現状、課題、将来に向けた展望をまとめている。
具体的には、総論として「粒子積層コーティング技術」について述べてから、CD法とWS法の基礎を理解するために「CD法、WS法の基本原理と特徴」、「固体粒子積層のメカニズム」、「コーティング材料と形成皮膜の特性」、「装置」、「課題解決に向けた技術開発と技術の将来展望」について詳細が述べられている。また、AD法の基礎としては「AD法の基本原理と特徴」、「プロセスの高度化」、「装置」を述べていおり、これら技術により、既存溶射法の問題点克服を目指す内容となっている。本書の最後には、応用編としてそれぞれの粒子積層コーティング技術の適用事例を示しており、それぞれの技術における実用化についても役立つ一冊となっている。
著者一覧
福本昌宏(豊橋技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学系 教授)
榊和彦(信州大学 工学部 機械システム工学科 准教授)
小川和洋(東北大学 大学院工学研究科 教授)
片野田洋(鹿児島大学 大学院理工学研究科 准教授)
黒田聖治((独)物質・材料研究機構 先進高温材料ユニット長)
明渡純((独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門 首席研究員)
渡邊誠((独)物質・材料研究機構 先進高温材料ユニット コーティンググループ 主任研究員)
和田哲義(スルザーメテコジャパン(株) 技術開発部 部長)
鬼澤光一郎(Sulzer Metco AG(Switzerland) CSC Europe Mechanical Engineer Spray Technologist)
市川裕士(東北大学 大学院工学研究科 附属エネルギー安全科学国際研究センター 助教)
佐藤和人((株)フジミインコーポレーテッド 溶射材事業部 溶射材事業課 主査)
山田基宏(豊橋技術科学大学 機械工学系 助教)
深沼博隆(プラズマ技研工業㈱ 開発部 代表取締役)
桑嶋孝幸((地独)岩手県工業技術センター ものづくり基盤技術第1部 上席専門研究員)
成田章(スタータック(株) 代表取締役)
大野直行(プラズマ技研工業(株) 技術部 部長)
森正和(龍谷大学 理工学部 機械システム工学科 講師)
馬場創((独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門 集積加工研究グループ 主任研究員)
伊藤義康(トーカロ(株) 取締役,溶射技術開発研究所 研究所長)
鳩野広典(TOTO(株) 総合研究所 素材研究部 機能材料研究G 主席研究員)
B5判、325頁、定価77700円(税込)、シーエムシー出版刊。