IHI( https://www.ihi.co.jp/ )と三菱電機( www.mitsubishielectric.co.jp/ )が共同開発した放電表面処理技術「MSCoating(マイクロ・スパーク・コーティング:MSC」がボーイング777用「GE90」エンジン部品に適用された。
従来、航空エンジン等の航空宇宙分野における金属部品のコーティングは溶接、溶射、めっき等の方法で被膜形成されていたが、加工工程で発生する熱変形、割れやはく離が問題になっていた。そこで両社は、金属やセラミックなどのコーティング成分を含む電極を用いて放電加工することにより、中温から高温までの環境下で耐摩耗性・耐熱性などに優れた高品質な機能性被膜を安定的に形成するMSCを共同開発した。
MSCは、様々な金属部品表面に適用できる放電加工による被膜生成技術で、安定的に耐摩耗性・耐熱性などに優れた高品質な機能性被膜を形成できる。また、装置を生産ラインへ組み込むことも容易であることからコスト削減が可能。両社は、1999年に共同研究を開始し、2003年にMSCを開発した。その後、高い耐久性が求められる航空エンジンを中心にマーケティングを進め、2007年に「CF34」エンジン部品に初めて採用され、実績を積み重ねてきた。
IHIは、MSCとしては初めてとなる海外企業に対するライセンス契約を2015年2月にGeneral Electric社(アメリカ:GE)と締結し、GEがMSCを用いた修理を開始した。また、IHIは2015年7月に当該部品を供給するAvio Aero社(イタリア:Avio)と受託加工契約を締結した。
今回のGE、AvioとIHIのこれらの契約により、ボーイング777用「GE90」エンジン部品のうち、Avioが担当する「低圧タービン6段ブレード」にMSCが適用されたことで、従来から用いられていた溶接と比較し、エンジン運用の環境下におけるブレードの耐摩耗性が大幅に改善されることが期待されている。
今回の契約に基づき、IHIはGEに対して治具・コーティング用部材を納入するとともに、技術指導を実施している。一方、三菱電機は専用放電表面処理機をGEへ納入した。これを受け、GEのMcAllen工場(アメリカ テキサス州)では本部品に対して、MSCを用いた修理が開始された。また、IHI 相馬第一工場(福島県相馬市)ではMSCの受託加工を開始している。
IHIは今後、他の航空エンジン部品へMSCが適用を目指すとともに、ガスタービンや自動車など様々な分野において利用を促進する。
※MSCの原理
コーティングさせたい材料の粉末を固めて電極とし、母材とともに絶縁油の中に入れて電圧をかける。これにより、電極と母材との間にパルス状の放電(毎秒約1万回)を繰り返すことで、電極の材料が母材に移動し溶融積層する。両社のMSCに関する特許は世界15か国において認定されている。