人とくるまのテクノロジー展2016開催、自動車技術に対応する表面改質技術
自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」(主催:自動車技術会)が5月25日~27日、横浜市のパシフィコ横浜で開催された。過去最大規模となる538社が出展、三日間で87375名が来場した。ここでは、主に表面改質関連の出展技術について紹介する。
日本コーティングセンターは、新開発のチタン系被膜「アクセルコート」を紹介。同被膜はドリルやエンドミルなど切削工具向けに開発したもので、同社従来被膜と比較してアルミニウムを多く含有できる技術を確立したことで耐久性を向上した。ビッカース硬さは2400~2900で摩擦係数は0.45~0.55。同社のエンドミルを使った実験では、従来被膜の切削距離が77mだったのに対してアクセルコートは147mと2倍になったという。
ナノコート・ティーエスは、ガラスレンズ金型・ホットスタンピング等の熱間加工金型の耐久性を向上するAlCrN系多層の「セルテスHM多層コーティング」を紹介。この被膜は、マイクロ単位の多層化構造により、被膜の結晶構造が緻密化し、耐摩耗性とともに耐食性も向上させた。1000℃に加熱した鋼板のホットスタンピング加工において、SKD61のパンチでは側面に大きな凝着摩耗が発生するのに対して、同被膜を施したパンチは僅かな凝着が見られたものの摩耗や酸化は見られなかったという。同社は、併せて冷間鍛造金型やプレス金型、打抜き金型金型の耐荷重性・耐衝撃性を向上するTiAlN系多層の「セルテスT多層コーティング」の提案も行った。
東洋ドライルーブは、従来から取り扱っている二硫化モリブデンやグラファイト、フッ素樹脂などの固体潤材をベースにした結合型固体潤滑被膜のラインナップを補う耐摩耗性の高い被膜として、一昨年から受託事業に乗り出したCVD法によるDLCコーティングを紹介した。現在、エアコンの部品や自動販売機の硬貨の通過部分で量産処理を行っており、今後も受注を伸ばしていく考えだという。
また、日本エリコンバルザースとエリコンメテコジャパンが共同で出展。前者がドライコーティングでグローバルに実績があるPVD/DLC処理部品の展示、後者が主に欧州自動車メーカーで本格採用が始まっている溶射エンジンブロックおよび溶射ガン他の展示を行い、グループで薄膜技術と厚膜技術の提案を行った。
展示会開催中の5月26日には「第66回自動車技術会賞」の表彰式が開催され、表面改質関連では以下の技術が技術開発賞を受賞した。
「アルミニウム部品への高耐食性表面処理技術の開発」
藤田昌弘氏、小野晋太郎氏(スズキ)
自動車などの輸送機器は軽量化を目的としてアルミニウム部品の適用が進んでおり、自動車の外観部品や腐食環境で使用される船外機部品は、高い耐食性が求められている。耐食性を高める方法の1つとして陽極酸化処理による皮膜の作製と、皮膜の孔を塞ぐ封孔処理が行われているが、従来の封孔処理は高温の水溶液中に長時間、部品を浸漬する方法であり、生産性とエネルギー消費の観点で課題があった。この技術は、従来とは異なる発想をもとに新たな処理液を開発し、室温かつ短時間での処理を可能とした。また、これまでみられた、部品に高熱が加わった場合や傷がついた場合における耐食性の低下を抑制する性能も見出し、商品化を実現した。生産性の向上と様々な状況における高い耐食性を実現したことは高く評価された。
「インジウム蒸着による全面めっき調スマートハンドルの開発」
原 崇志氏、田端恒博氏、鈴木芳征氏、久保田 将文氏、片山幸祐氏(アイシン精機)
自動車ドアハンドル部分を触れることにより施錠・解錠操作が可能なスマートハンドルは、タッチセンサを活用することにより従来のボタン式スイッチをなくすことで先進的スタイリッシュな見栄えを達成させている。見栄えを左右する表面処理として金属高級感があるクロムめっきが一般的だが、センサ誤作動の課題がありハンドルの全面への処理ができなかった。そこで、インジウム蒸着法を活用し金属を島状に成膜することでめっき金属外観とセンサ誤作動のない絶縁性を両立した。合わせて耐食性・耐候性の高い塗料開発を行い、外装部品への適用が可能になった。本開発によってスマートハンドル全面に金属高級感の見栄えを付与しデザイン性の向上に貢献したことは高く評価された。