日本機械工具工業会、コーティング工具など「平成28年度 日本機械工具工業会賞」発表
日本工具工業会( http://www.jta-tool.jp )はこのほど、「平成28年度日本機械工具工業会賞」の受賞者を発表した。前身の超硬工具協会から数えて今回が39回目。業界功労賞で故 大沢輝秀氏(オーエスジー)、倉阪克秀氏(住友電気工業)の2名が受賞したほか、技術功績賞15件、環境賞に環境大賞1件、環境特別賞2件、環境活動賞13件が選定された。
技術功績賞で表面改質技術が評価された主な工具、受賞者、技術の特徴は以下の通り。
多刃ダイヤフェースミルの開発
神田 保之氏、本田直也氏(兼房)
自動車用に使われるアルミ部品では大型になるほど加工面積が大きく、加工時間が長くなり、加工ラインのネック工程となっている。特に、タイミングチェーンカバーやクランクケースなど合わせ面の加工にはフェースミルが用いられる。従来は替刃式かろう付けタイプであるが、替刃のクランプスペースやろう付けの熱影響層の干渉により、刃数に制限があった。同社独自のろう付け技術により熱影響層の緩衝域を狭くし、従来より刃数を1.5~3倍多くすることができた。
高能率モジュラードリルDRA型の開発
古賀 健一郎氏、波多野 弘和氏、難波睦政氏(京セラ)
低抵抗を特長とし、切りくず排出とホルダ剛性を高いレベルで両立、高能率、高精度、長寿命を実現するモジュラードリルを開発した。主な特徴は以下の通り。
・切りくず排出性重視。深穴加工でも優れた切りくず排出性能を発揮
・一方で、ドリル本体剛性も向上させ、安定加工と優れた穴精度を実現
・「MEGACOAT NANO」技術適用、長寿命実現
・ヘッドねじ止め方式を採用し、チップ交換が容易
耐熱合金旋削加工用材種 AH8005/8015の開発
田中茂揮氏、大理伸哉氏(タンガロイ)
近年、耐熱合金の需要は航空宇宙やエネルギー産業界を中心に増加している。AH8005/8015は耐熱合金旋削加工におけるクレータ摩耗と境界損傷の抑制に着目し、加工の高速化と長寿命化を狙って開発された。同品は①高Al含有AlTiN系被膜の組織制御を可能にした新開発積層技術、②母材の高温強度を大幅に改善した新組成・組織制御技術、の二つの新技術を採用している。さらに、表面平滑化技術「Premium Tec」によって、耐溶着性と加工安定性が向上した。
鋳鉄旋削加工用材種T515の開発
高橋欣也氏、佐藤博之氏(タンガロイ)
T515は、専用の新母材および新コーティングを採用した鋳物加工に適した高汎用性CVD材種である。生産性向上のため、海外を中心として高速切削化が進み、従来よりも高い耐摩耗性を有する材種が求められている。一方、鋳鉄加工は取り代変動・黒皮加工等不安定な加工であり、インサートには高い耐被膜はく離性、耐チッピング性が求められる。同品は、耐摩耗性、耐はく離性、耐チッピング性を高い次元で両立させることで、幅広い加工条件で安定寿命を実現している。
鋼旋削用CVDコーティング材種MC6015の開発
山口亮介氏、村上晃浩氏(三菱マテリアル)
合金鋼や炭素鋼など幅広い産業分野で使用される鋼の高速・高能率加工を実現するため、高い耐摩耗性と刃先安定性を兼ね備えたCVDコーティング材種MC6015を開発した。同品は、母材表面に均一な強靭層を持たせ刃先の欠損を抑制するとともに、従来より厚いAl2O3層により、高速加工時のように刃先の発熱が顕著な場合でも摩耗進行を抑制することができ、大幅な長寿命化を達成することができる。
超硬合金加工用ダイヤモンドコートドリルUDCMXの開発
渡邉英人氏、大崎英樹氏(ユニオンツール)
UCCMXは、従来困難であった超硬合金の穴あけ加工を実現するものである。従来、超硬合金の穴あけ加工は放電加工やダイヤモンド(PCDや電着)工具を用いて行うのが一般的で、従来の硬脆材加工用ダイヤモンドコートドリルで超硬合金の加工を行っても工具寿命が短く実用的ではなかった。このような状況に対して、超硬合金の穴あけを低コストで、短いリードタイムで実現することを目的に開発を行った。2012年に超硬合金を直彫りできるエンドミルUDCシリーズを発売しており、今回はこのUDCコートを応用し、さらに小径ドリルの形状を最適化することで超硬合金加工用ダイヤモンドコートドリルを開発した。