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SEMICON Japan 2024

 

トライボコーティング技術研究会など、第9回岩木賞贈呈式、第19回シンポジウムを開催

 トライボコーティング技術研究会( https://www.sites.google.com/site/tribocoating/ )と理化学研究所は2月24日、埼玉・和光市の理化学研究所・鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第9回贈呈式」および「第19回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―微粒子、レーザー、放電加工による高付加価値表面の創成―」を開催した。
第9回岩木賞受賞者と関係者第9回岩木賞受賞者と関係者

 岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は、優秀賞に業績名「微粒子投射処理とDLCなどの硬質薄膜形成技術の複合化」で不二WPC(熊谷正夫氏、下平英二氏、住吉弘至氏)が受賞した。また、特別賞には業績名「レーザ照射を用いたバイオインプラントの骨親和インターフェース創成」で水谷正義氏・厨川常元氏(東北大学大学院)・早川 徹氏(鶴見大学)と、業績名「放電加工によるチタン材の着色仕上げ」で南 久氏(大阪府立産業技術総合研究所)・増井清徳氏(E.D.M.ラボ(元 大阪府立産業技術総合研究所))が、それぞれ受賞した。
挨拶する大森会長挨拶する大森会長

 冒頭、挨拶に立った大森 整会長(トライボコーティング技術研究会 会長、理化学研究所 主任研究員)は、「当シンポジウムは、トライボコーティング技術研究会が中心となって企画・開催し、同時に岩木賞の贈呈式ならびに記念講演を行っている。受賞業績から付ける今回のサブタイトルは、『微粒子、レーザー、放電加工による高付加価値表面の創成』とし、本日は微粒子投射処理/DLCによる自動車の省燃費から、レーザーを利用した医療応用、さらには意匠性表面創成に至るハイレベルな研究が発表される。本トライボコーティング分野は非常に重要な技術分野。お集りの皆様方でぜひ活発な情報交換を行っていただき、皆様のビジネス展開に役立てていただきたい」と述べた後、岩木賞各賞の審査経過説明を行い贈呈式に移行した。
優秀賞を受賞した不二WPC(左から住吉弘至氏、熊谷正夫氏、下平英二氏)と関係者優秀賞を受賞した不二WPC(左から住吉弘至氏、熊谷正夫氏、下平英二氏)と関係者

 優秀賞「微粒子投射処理とDLCなどの硬質薄膜形成技術の複合化」の業績は、「微粒子投射処理(FPB、商標ではWPC処理)」と「硬質薄膜形成技術」の複合化により、微粒子投射処理における表面形状の維持・保存といった課題や、硬質薄膜形成技術におけるDLC膜の密着性向上といった課題を解決し、エンジンのアルミピストンへの適用などで耐久性向上や燃費向上などに貢献。同複合処理だけでなく、解析を含めたソリューションを提供することによって、潤滑油剤の適用が難しい食品加工や医療機器関連など内需拡大にも貢献できることや、今後の展開への期待感などが評価されたもの。受賞の挨拶に立った同社の下平社長は「当社はWPC処理という、金属表面に圧縮残留応力を付与したりテクスチャリングを形成できる簡便ながらユニークな技術を長年手掛けてきた。一方DLCは、膜そのものは平滑で高硬度だが密着性が悪い。10年前に内製化するにあたり“DLCの下地は鏡面にするべき”というそれまでの常識”を見直し、WPC処理との組合わせや下地処理の工夫などによって大幅な密着性改善を実現できた。神奈川県産業技術センターなど指導・協力いただいた方々に感謝したい」と述べた。
特別賞を受賞した、左から早川 徹氏(鶴見大学)、厨川常元氏・水谷正義氏(東北大学大学院)と関係者特別賞を受賞した、左から早川 徹氏(鶴見大学)、厨川常元氏・水谷正義氏(東北大学大学院)と関係者

 特別賞「レーザ照射を用いたバイオインプラントの骨親和インターフェース創成」の業績は、レーザ照射を利用して、チタン系バイオインプラントの表面に骨芽細胞との接着性を向上させる粒状の微細なテクスチャを形成させる表面改質手法を確立したもの。レーザでチタン系バイオインプラントにテクスチャを形成する際に除去されたチタン(熱せられチタニアとなった)デブリが、テクスチャ周囲に付着、骨芽細胞の接着性向上と、骨の主成分であるハイドロキシアパタイトの形成を同時に達成、その相乗効果によって骨親和性に優れるインターフェースを創成可能にする。濡れ性を制御できることでトライボロジー特性も制御可能であることなどが評価された。受賞の挨拶に立った水谷氏は、「医療のハードルは高いが工学、医学の両面から進め、医療機器メーカーにも加わっていただき、実用を目指したい」と述べた。
特別賞を受賞した、左から増井清徳氏(E.D.M.ラボ)、南 久氏(大阪府立産業技術総合研究所)と関係者特別賞を受賞した、左から増井清徳氏(E.D.M.ラボ)、南 久氏(大阪府立産業技術総合研究所)と関係者

 特別賞「放電加工によるチタン材の着色仕上げ」の業績は、水中でチタン材を放電加工することで、形状加工と同時に様々な色調の加工面に仕上げ、チタン表面の装飾性やファッション性などを付与する新しい着色法に関するもの。陽極酸化法のように前加工面の影響を受けず、また作業環境・廃液処理の問題がなく、前加工面を除去すると同時に平均加工電圧の制御で酸化皮膜の膜厚を調節し加工面を任意の色調に表現できるシンプルでクリーンな着色法で、耐食性、耐候性、耐摩耗性も向上できることから、装飾性と機械的特性を高めるなどチタン材の新用途を開拓する技術として評価された。受賞の挨拶に立った南氏は、「20年前、人工関節に使われるチタン材と生体とのなじみを良くするために放電加工の研究を始めた。通常は加工面の変質として嫌われる作用を、加工面の干渉色=着色としてとらえた。放電加工を良く知らなかったからこそ実現できた」と述べた。

 贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として優秀賞の熊谷正夫氏、特別賞の水谷正義氏、南 久氏がそれぞれ講演を行った後、以下の会員講演が行われた。

 会員講演1「DLCコーティングと事例紹介」大沼一平氏(日本電子工業)…メタンとテトラメチルシランを主とした成膜ガスにより直流プラズマCVD法によって1時間あたり4~5μmの高速成膜が可能な「NEO-Cコーティング」装置によるシリコン含有DLC(DLC-Si)コーティングの特徴と金型・治工具、機械部品・自動車部品などへの適用について紹介したほか、PVD方式のDLC成膜装置による「NEO-VCコーティング」の、AIP法によるta-C膜からUBMS法による膜厚制御・硬さ・被膜粗さのバランスが良好なDLC膜、PACVD法による高生産性のDLC膜といった標準ラインナップについて紹介した。

 会員講演2「HiPIMSパルス周波数のリアルタイム制御による反応性プロセス安定化技術の開発」清水徹英氏(首都大学東京)…反応性大電力パルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスを遷移領域内に安定化するのに効果的な参照パラメータとなり得るピーク電流値(Ipk)と反応性ガス流量との関連性の解明や、ターゲット表面状態の変化に対する精度の高い応答性と安定性につながるパルス周波数によるIpk値のリアルタイムフィードバック制御システムの組込み、安定した化学組成、成膜レート、結晶構造を持つ窒化物・酸化物膜形成における反応性ガス流量の幅広いプロセスウィンドウなどについて解説した。

 会員講演3「トポロジカル絶縁体薄膜の量子伝導特性」川村 稔氏(理化学研究所)…強磁性トポロジカル絶縁体の厚さを10nm程度まで薄膜化すると量子閉じ込め効果のために磁化に平行な側面での電気伝導度が量子化される。磁化に平行な側面では電子のスピン方向が磁化に平行な方向に揃えられるため、電子が決まった方向の運動量子化持つことができずに、電流を一方向にのみ流すことになる。この強磁性トポロジカル絶縁体の、磁化さえ揃っていれば外から磁場を加えることなく起きる現象「量子異常ホール効果」について解説するとともに、量子異常ホール効果の抵抗標準として利用できる可能性について述べた。
第19回「トライボコーティングの現状と将来」シンポジウムのもよう第19回「トライボコーティングの現状と将来」シンポジウムのもよう