人とくるまのテクノロジー展2017開催、自動車の性能向上に貢献する表面改質技術
自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2017横浜」(主催:自動車技術会)が5月24日~26日、横浜市のパシフィコ横浜で開催された。過去最大規模となる550社が、内燃機関の燃費改善に加え、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などの電動化、先進運転支援システム(ADAS)などを見据えて、最新の製品・技術を披露した。
今回、自動車メーカーの出展で目立った電動化車両の各国での導入支援が活発化する一方で、国際エネルギー機関(IEA)では、2050年の時点でも乗用車用動力の約8割を内燃機関が占めるとの予測を打ち出しており、2014年に自動車9社が中心になって自動車用内燃機関技術研究組合(AICE:アイス)を発足、ガソリン・ディーゼルエンジンの燃費向上に向けた共同研究を加速させている。こうした燃費改善にかかわる表面改質技術として、以下の技術が披露された。
シーケービーでは、燃費向上から適用の進むアルミ製シリンダーブロックで一般的な鋳鉄製シリンダーライナを撤廃しつつ、ピストンリングとの摺動に耐えると同時に摩擦を低減できる溶射膜を形成する、独Sturm社のシリンダーボア溶射装置の技術を紹介。6気筒エンジンで数kgという軽量化を実現できるほか、約2mmの厚みがあるシリンダーライナに対して、同溶射技術では被膜は0.15mmと非常に薄く、軽量化に加え、熱伝導性が良くなりエンジンの冷却性能が上がるためノッキングが起こりにくくなり、エンジン効率が全体的に向上する。
シェフラージャパンでは、マツダの「SKYACTIV-D」の可変動弁機構として採用されている「スイッチャブルフィンガーフォロワー」を展示した。カムと摺動するスイッチャブルフィンガーフォロワーのスライディングパッドでは、カムと相性が良く、高荷重でのフリクションを低減し耐摩耗性を向上するコーティングが検討され、第2世代の2014年からはエンジン油中のモリブデン系添加剤に影響されない水素含有DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜が被覆されている。
燃焼ガスのシール機能やエンジン油のコントロール機能、ピストンで受けた熱をシリンダへ逃がす伝熱機能、ピストン姿勢のサポート機能を持つピストンリングでは、希薄エンジン油下での耐摩耗性や耐久性を高めつつ低フリクション化を図る対策の一つとして、潤滑性を高めるDLCコーティングがピストンリング各社(リケン、日本ピストンリング、TPR)で適用され始めている。中でも、水素含有DLCで問題にされるエンジンオイル中の添加剤によるDLC膜の摩耗促進の心配がなく、硬質で摩耗に強い水素フリーDLCコーティングが採用されている。
また、会場内では第67回自動車技術会賞の受賞業績を紹介。表面改質関連では以下の技術が紹介された。
論文賞
・「Development of Fracture-split Connecting Rods made of Titanium Alloy for Use on Supersport Motorcycles」久保田 剛氏、 土居航介氏、村上 剛氏、三浦 徹氏、小島勇輝氏(ヤマハ発動機)
掲載誌:SETC2015(JSAE 20159830/SAE 2015-32-0830)
本研究では、チタンコンロッドとしては世界初となる大端破断分割工法を確立し、原材料使用量、鍛造工数、機械加工工数の大幅削減を実現した。さらに、鍛造工法、表面処理手法についても課題を解決し、一般量産車への採用が可能なコストレベルと、それに向けた量産工程の確立につなげた。これらの研究は、チタンコンロッドの低コスト化だけでなく、信頼性の向上にもつながっている。
・「装飾クロムめっき腐食に及ぼす融雪剤と土壌成分の影響解析」
掲載誌:自動車技術会論文集 Vol. 46 No. 6
梶山優子氏、森 元秀氏、中村昌博氏、杉本 剛氏、尾畑敏一氏(トヨタ自動車)
ロシア市場において自動車用外装部品に使われている装飾用クロムめっきが、特異的に腐食することが知られている。しかし、ロシアのみで特異的に腐食する原因は不明確であった。今回、土壌成分に着目し、ロシアに多く存在する土壌成分中の有機酸が、冬期に融雪塩として散布されている塩化カルシウムと混在することで、クロムめっきの腐食へ大きな影響を及ぼすことを解明した。有機酸の中の、特にフルボ酸はクロムと錯体を生成することで、クロムの不動態皮膜を破壊し、更にクロム層と下層のニッケル層に電位変化をもたらし、ニッケル層が本来持つ犠牲腐食効果を喪失させる事が判明した。
技術開発賞
・「燃焼室壁温スイング遮熱によるエンジン冷却損失低減技術の開発」川口暁生氏、西川直樹氏、山下親典氏(トヨタ自動車)、脇坂佳史氏、清水 富美男氏(豊田中央研究所)
性能と排気ガスの悪化を伴わずに内燃機関の熱効率を向上させるため、受賞者らは燃焼室壁の表面温度をガス温度に追従させて冷却損失を低減する「壁温スイング遮熱法」を提案している。本遮熱法を実現するため、アルミニウム合金を陽極酸化して形成する薄い皮膜に着目し、合金中の晶出物を利用して従来よりも膜内部の空孔量を増やして必要となる熱物性を達成した。また、皮膜を表面から封止する技術を新たに追加することでエンジン筒内の高温でかつ高圧の環境下においても、断熱性能と膜強度を両立させることに成功した。本遮熱膜を乗用車用ディーゼルエンジンのピストンに適用し、冷却損失の低減と熱効率の向上効果を実証して、世界初の量産化を実現した。