トライボコーティング技術研究会、第12回岩木賞贈呈式、第22回シンポジウムを開催
トライボコーティング技術研究会(大森 整会長、 https://www.sites.google.com/site/tribocoating/ )と理化学研究所は8月28日、埼玉県和光市の理化学研究所 鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第12回贈呈式」および「第22回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―ナノダイヤモンド応用技術、微細構造コーティング技術、AI援用加飾成形技術―」を開催した。
岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故 岩木正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は、ナノ炭素研究所 大澤映二氏(豊橋技術科学大学 名誉教授)が業績名「2.6nm爆轟法ナノダイヤモンド分散粒子の生産技術の確立とナノダイヤモンドコロイドの事業化」により、岩木賞初となる大賞・事業賞の同時受賞に輝いた。また、コマツNTC 前花英一氏、東北大学大学院 水谷正義氏・厨川常元氏が業績名「微細ラティスコーティング技術の開発」で特別賞を、IBUKIが業績名「加飾成形用金型の製造技術ならびにAI援用技術に基づくIoT化事業」で事業賞を受賞した。
冒頭、挨拶に立った大森会長は「今日の贈呈式およびシンポジウムは令和元年度のイベントで、本来であれば2月28日に開催を予定していた。今回は新型コロナウイルスの影響により半年遅れではあるが開催に漕ぎ着けた。皆様コロナ禍で不自由な中お集まりいただいたことを感謝したい」と述べた後、岩木賞各賞の審査経過説明を行い贈呈式に移行した。
大賞・事業賞の業績「2.6nm爆轟法ナノダイヤモンド分散粒子の生産技術の確立とナノダイヤモンドコロイドの事業化」は、品質工学の田口メソッドを活用してビーズミリング法によるナノダイヤモンドの解砕条件を最適化、その際にナノ粒子独特の挙動を発見してこれを巧みに利用しつつ、解砕終了後は水を一切添加しないなどの独自プロセスの考案により2.6nmナノダイヤモンド粒子の定常的な生産に成功し、ナノダイヤモンドコロイドの量産・実用化を実現したことが評価されたもの。ナノダイヤモンドコロイド「NanoAmando®B」水溶液の生産技術を確立し、実用化、製品化に成功、販売委託先のニューメタルス・エンド・ケミカルス・コーポレーションを通じ、これまでに研究開発試薬、切削加工液(クーラント)用潤滑・加工助剤や研削加工具(砥石)の性能補助剤(ナノダイヤモンド含有砥石)、コーティング(化学気相成長:CVD)種付け剤など、すでに多くの販売実績を持つ。水性コロイド溶液は濃黒色でやや使いにくいことから、現在は基本粒子の表面にある非ダイヤモンド炭素を除去して無色透明の粉末粒子「NanoAmando®W」の製造を進めるなど、さらなる市場拡大に努めていることなどが評価された。
Web会議システムにより出席した大澤氏は受賞の挨拶で「伝統のある名誉ある賞をいただき、深く御礼を申し上げる。ダイヤモンドと言う地球上で最高の素材は加工が難しいため、あまり使われておらず非常に残念に思っていた。ナノダイヤに凝集せず分散できるようになったことで適用が広がりつつある」と謝辞を述べた。
特別賞の業績「微細ラティスコーティング技術の開発」は、モノとモノとの界面を設計する機能性インターフェース創成方法の新たな提案を行うもの。たとえば、骨との接合性を向上させるなどデンタルインプラント界面への多様な機能を満たすために、①造形の微細性、②自由なデザインの多孔質構造(ラティス構造)、③同構造の曲面など任意のバルク材表面への付与という要件を実現する「微細ラティスコーティング®」を可能にする独自の積層造形法(3Dプリンティング)を開発した。上記の3要件を解決するため、連続パルス発振レーザによる95μmの微細造形の実現や、水平梁構造造形技術、独自開発の粉末供給器の等速運動により一層あたりの粉末堆積厚を均一にする「重力落下式粉末供給法」の開発を行い、多孔質構造による、アンカー効果など各種機能を手軽に付与し活用できるようにしたことが評価された。繊維強化樹脂と金属との異材接合手法としても適用の可能性があることも、期待されている。
受賞の挨拶に立った前花氏は「当社は建設機械メーカー・コマツの子会社として工作機械を取り扱っている。微細ラティスコーティングは、技術については“非常におもしろい”と皆様に言ってもらえるが、なかなか実用化が進んでいない。今回の受賞を機に皆様のアドバイスなどをいただけたらと思っている」と謝辞を述べた。
事業賞の業績「加飾成形用金型の製造技術ならびにAI援用技術に基づくIoT化事業」は、二次加工を必要としない加飾(樹脂にメタリック感を持たせるなど、繊細で複雑な微細加工を表面に付与)を施す独自の加飾成形金型技術について、従来依存していた熟練者の勘・ノウハウを形式知化したブレインモデルを作り、AIと連携しつつIoT金型を活用して技術伝承を行うとともに、金型製造ノウハウをコンサルティングに転用していることなどが評価されたもの。上述の加飾成形金型の作製ではこれまで、でき上がった型に樹脂を流し込む成形トライで不具合があると、熟練者の感覚を頼りに不具合の原因を探りながら金型修正を繰り返していたが、こうした現場の課題を解決するため、位置センサや温度センサ、圧力センサなどの8種類のセンサを埋め込んだIoT金型を製作して適用、成形中に金型の内部で起こっている樹脂流れや金型挙動を可視化すると同時に、AIを用いて成形の不具合に関する分析を行えるようにした。改良を重ねたIoT金型が完成し、現在は外販も検討中という。
受賞の挨拶に立ったIBUKIの松本晋一氏は「当社のような中小企業がこのような名誉ある賞をいただけるのは、本当に光栄で何よりも一人ひとりの社員の自信につながる。社員がひたすらがんばった結果として受け止めたい」と謝辞を述べた。
贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として大賞・事業賞で大澤氏、特別賞で前花氏、事業賞で松本氏がそれぞれ講演を行った。