超硬工具協会、コーティング材種など協会賞・技術功績賞を発表
超硬工具協会( http://www.jctma.jp )はこのほど、工具業界で活躍した人や目覚しい技術開発や改善合理化を図った人を称える「平成25年度超硬工具協会賞」の受賞者を発表した。今回が通算36回目。業界功労賞で生悦住 望氏(ダイジェット工業)、吉田 省三氏 (日本タングステン)の2名が受賞したほか、技術功績賞11社19件、作業・事務・生産技術等の改善賞5社6件が選定された。
技術功績賞でコーティングを施した主な工具、受賞者などは以下のとおり。
鋼旋削用コーテッドサーメット T1500Zの開発
住友電工ハードメタル 小池 さち子氏、広瀬和弘氏、福井治世氏
①技術の特徴
自動車分野等における加工の高能率・高精度化に伴い、仕上げ加工では高負荷条件下での加工面の品質維持による長寿命化が求められている。これに対応するため、優れた耐溶着性と耐摩耗性を有する業界初の超潤滑PVDコーティング『ブリリアントコート』と、同コートを適用したコーテッドサーメット T1500Zを開発した。
②新規性/独創性
ブリリアントコートは鋼との親和性が低い新コーティング材質の適用により被削材の溶着を大幅に低減し、組織の微細化により強度を高めることでチッピングの抑制に成功した。この結果、T1500Zは加工の初期からノンコートサーメットに匹敵する優れた加工面品位が得られ、かつ安定した品位を長時間維持することができる。
③協会に対する啓発度
T1500Zは、従来ノンコートサーメットしか使用できなかった高品位な仕上げ面が要求される用途にも適用可能であり、従来比1.5倍の長寿命化が可能である。また各種鋼部品加工の一発仕上げを実現するなど、コストと品質の両面で多くの顧客に貢献している。
ステンレス旋削用CVD工具「T6100シリーズ」の開発
タンガロイ 佐藤博之氏、福島直幸氏
①技術の特徴
難削材のステンレスを加工した場合、被削材の溶着から工具すくい面の被膜剥離・破壊が生じ損傷が進行する。安定した寿命で加工するために、この被膜破壊・剥離を抑制する技術を確立した。具体的には元素拡散によって、母材/被膜間の密着性を改良(スクラッチ試験で従来被膜より130%性能up)した。
②新規性/独創性
ステンレス切削における寿命ばらつきが、工具すくい面側の損傷に因ること、これは溶着起因による被膜の剥離・破壊が進行することで生じることを明らかにした。このすくい面の損傷抑制には被膜/母材界面の密着性(元素拡散の均一性と量が多いことが特徴)を改善することで、切削中のすくい面剥離量を改善した。
③協会に対する啓発度
ステンレス加工においても高能率(高速)加工の要求は多く、このT6100シリーズは高速加工用で安定・長寿命な加工を実現する。特にT6120はオーステナイト系ステンレスを切削速度200m/min以上で加工しても安定した寿命を示した。ユーザの部品加工時間を短縮し、生産性の向上に大きく貢献している。
鋼加工用コーティング材種「DM4」の開発
日本特殊陶業 小牧工場 波多野 祐規氏、豊田亮二氏、吉川文博氏
①技術の特徴
被削材の難削化により従来材種では「高速加工」や「長寿命化」への対応が困難になりつつある。特に溝入れや突っ切り加工では、「耐酸化性」「耐摩耗性」「耐溶着性」「耐密着性」が要求されこれらを同時に満たすことは困難であった。本開発では結晶格子の歪抑制による膜内及び膜界面の残留応力の緩和技術、及び固体潤滑技術で、「耐酸化性」「耐摩耗性」だけでなく「耐溶着性」「耐密着性」の向上を目的に開発を行った。
②新規性/独創性
膜の高硬度化に伴い密着性が低下するトレードオフの課題を打破する為、3つの新技術を各層に盛り込み、「耐酸化性」「耐摩耗性」と「耐溶着性」「耐密着性」の向上を両立させた。
表面層:固体潤滑性に優れ、摩擦係数を低減したTiN系耐溶着膜
中間層:下地層との密着性を高め、表面層側を高硬度化したTiCN特殊傾斜膜
下地層:結晶構造を制御し圧縮応力を低減。基材との密着性を高めたTiAlN系特殊硬質膜
③協会に対する啓発度
鋼系の溝入れ、突っ切り加工等において、安定した長寿命化が可能となりユーザーより要望される高能率加工と工具費削減に大いに貢献することができた。また耐溶着性の向上により高精度、美麗な加工面を得ることができ、品位向上も同時に果たすことができ、ユーザーから喜びの声が多数寄せられている。
Rドリルの開発
マコトロイ工業 東脇啓文氏、橋本英二氏
①技術の特徴
本製品は、航空機等で使用されている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の穴明け時に発生しやすいデラミネーション(層間剥離)の抑制、高能率、長寿命を狙ったものである。ダイヤモンドコーティングにより耐摩耗性に優れると共に、切刃エッジ部の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工にわたり切削性能が維持できる点に特徴がある。
②新規性/独創性
従来の切削工具では切刃部のすくい面及び、逃げ面全体にダイヤモンドコーティングが施され、CFRPへの穿孔を行うと切刃エッジ部の摩耗が進行するに従って、切刃エッジ部がR形状に摩耗し、大きくなり、切削性能の低下によりデラミネーションを発生させ穿孔寿命が短い。ドリル先端切刃R形状、セルフリグラインド機構の採用によって、切削性能の低下を抑制することで、デラミネーションの抑制、高能率、長寿命を実現した。
③協会に対する啓発度
従来工具と比べて穴品質を維持し、使用工具本数の低減、加工効率の向上により航空機業界などの加工、設備投資に貢献。又、資源の有効利用に効果があり、電力の削減により環境にやさしい製品を提供。
鋼旋削加工用CVD材種MC6025の開発
三菱マテリアル 素 花章氏、平方史生氏
①技術の特徴
従来、鋼部品の加工においては切刃領域に生じる疲労亀裂を起点としてチッピング損傷が発生しやすいという課題があった。本製品の開発においては疲労亀裂の発生箇所および発生形態に着目し、超硬合金母材の改良およびCVD被膜の結晶方位制御により、疲労亀裂起因によるチッピングを防止するとともに、高耐摩耗コーティングの適用により、従来製品と比べて安定した長寿命化を実現した。
②新規性/独創性
加工後切刃の調査より、切刃稜線部に生じる疲労亀裂が母材の一定深さ以上に進展することがチッピング発生の主要因であると特定し、その進展を防ぐために切刃稜線付近の母材結合相濃度の増加を試みた。新原料を含めた成分組成と焼結プロセスの最適化により、当該領域の結合相濃度を従来の約2倍に高めた母材の製造を達成し、これにより耐チッピング性の大幅改善を実現した。さらに、Al2O3層の特定方位の配向度と耐チッピング性に相関関係があることを確認し、コーティングプロセスの最適化により最適配向度への安定制御技術を確立し、さらなる耐チッピング性の向上を実現した。
③協会に対する啓発度
従来製品では突発的なチッピング発生の懸念から工具交換の定数を低く設定することが多かったが、本製品では切れ刃を本来の工具寿命まで使い切ることが可能となった。これによりユーザーにおける単位加工数量に必要とされるインサート個数が減少するため、ユーザーにとっての工具コストの低減、および超硬工具製造における希少資源使用量の削減という観点で貢献度が大きい。
スマートミラクルエンドミルの開発
三菱マテリアル 深田耕司氏、橋本達生氏、大田康史氏
①技術の特徴
本製品は「Ti合金やステンレス鋼などの難削材の高能率加工」を目的として開発したエンドミルである。前述の難削材は、「熱伝導性が低く、加工硬化しやすい」という材料特性から、これまで高能率に加工することができなかった。今回、新たに開発した「スマートミラクルコーティング」に平滑化表面処理技術を適用することで、切削抵抗や切りくずの溶着を抑え、高能率かつ長寿命な加工を実現した。
②新規性/独創性
従来の表面平滑化技術では、切れ刃が丸くなり母材が露出する問題があった。新開発の「ゼロミュー・サーフェース処理」で、平滑表面と超硬エンドミルに必要なシャープエッジの両立を実現させた。さらに、新開発のアーク放電制御技術による皮膜組織の最適化を図った「スマートミラクルコーティング」で、特に難削材における耐摩耗性能を向上させた。
③協会に対する啓発度
前述の新開発技術の採用で、難削材を従来比2~3倍もの高能率に加工でき、かつ長寿命化を実現。航空機部品などの生産性向上やリードタイム短縮に大きく貢献している。また、様々な加工に幅広く対応できるよう、3枚刃スクエア、4枚刃ラジアスなど6シリーズをラインアップし、ドリリング用特殊形状やクーラント穴付も揃え、適用範囲を拡大させた。