トライボコーティング技術研究会など、第6回岩木賞贈呈式、第16回シンポジウムを開催
トライボコーティング技術研究会( http://www.tribocoati.st )と理化学研究所は2月28日、埼玉・和光市の理化学研究所・鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第6回贈呈式」および「第16回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―医療、光学、ナノ分野へのコーティング技術の応用―」を開催した。
岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故 岩木正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は、事業賞に「医工学連携大学発ベンチャーによる国産冠動脈用DLC コートステントの開発と事業化」で山下修蔵氏(日本ステントテクノロジー)、 中谷達行氏(トーヨーエイテック)、窪田 真一郎氏(岡山県工業技術センター) 、優秀賞に「X 線/EUV 光学素子開発に適用できる高精度・高平滑多層膜コーティング技術開発とそれを利用した材料・微細構造分析用標準試料の開発」で竹中久貴氏(トヤマ)、同じく優秀賞に「マイクロ・ナノスケ―ル三次元DLC コ―ティング:膜特性の評価およびプラズマ挙動解析」で崔 埈豪氏(東京大学)が受賞した。
事業賞を受賞した山下氏らは、長さ方向の柔軟性と半径方向の剛性を両立することで患部に挿入しやすく血管内壁への刺激を軽減する全リンク型ステントを開発した。Co-Cr合金製チューブから微細な網目形状を切り出すためのレーザー切断技術や、切断面に付着したバリや酸化物を除去するクリーニング技術、エッジを除去しステント全面を滑らかにするための電解研磨技術という精密加工技術と、ステントの拡張/変形に耐えてはく離することなく生体適合性被膜を保持するナノレベル厚のフレキシブルDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング技術によって、長期的な安全性・生体適合性を実現し再狭窄を防止する。このDLCステントをはじめ、医工連携ネットワークによる国産医療機器の開発促進とともに存在感を高めるビジネスモデルが期待されての受賞となった。
優秀賞を受賞した竹中氏は、マグネトロン・スパッタリングによる平滑極薄層の形成技術や高精度周期構造の形成技術、面内および深さ方向に任意位置で希望膜厚の薄膜を形成する技術、面内への任意希望厚みの薄膜形成技術を確立したことで、X線/EUV光学素子やデルタドープ多層膜標準試料、AFM探針形状評価試料などを開発、すでにEUVリソグラフィー用多層膜ミラーやAFMプローブチップキャラクタラーザなど様々な実用化につながっていることや、今後も多層膜型素子を利用した分析装置などの開発への応用が見込まれることが評価されての受賞となった。
同じく優秀賞を受賞した崔氏は、マイクロ・ナノスケールの三次元部材にバイポーラ型PBII(プラズマ利用イオン注入成膜)法を用いてDLC成膜を行い膜の特性を評価、その膜構造・膜質に関する新しい知見を得た。知見に基づき、エンジン部品の内面摺動部やマイクロギアなどでの低摩擦・高耐久性の付与や、化学プラントの配管内面などでの耐腐食性の付与、ナノインプリントリソグラフィー用金型での離型性の付与など、今後の適用の可能性が評価されての受賞となった。
贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として事業賞は山下氏、中谷氏、窪田氏三者それぞれの立場から、優秀賞は竹中氏、崔氏がそれぞれ講演を行った後、以下の会員講演が行われた。
会員講演「低圧プラズマCVD法で成膜したDLC膜とその機械特性評価」松岡宏之氏(DOWAサーモテック)……膜の中間層をスパッタリング法で、表面のDLC膜をプラズマCVD法によって成膜するプロセスについて解説。圧力数Pa程度の低い領域のプラズマ発生でもDLCの成膜が可能であったことを報告するとともに、耐摩耗性や耐熱性など、膜の機械的特性評価結果についても解説を行った。
会員講演「RP造形品への塗装技術の開発」小野澤 明良氏(東京都立産業技術研究センター)……付着性が低いなどの理由から塗装が難しいナイロン粉末を積層した三次元造形(Rapid Prototyping)品にムラなく塗装を行うため、前処理、塗料、塗装方法などを体系的に検討し、立体造形品にも製品モデルとして有効に活用できる塗装仕様について報告した。
会員講演「RIビームの工業応用~表面摩耗量検査法の開発~」吉田 敦氏(理化学研究所)……RI(放射性同位体)ビームを機械部品摺動部の摩耗検査に適用する手法について解説。RIビームの特徴を活かして、シリンダや軸受、ギアなどの目に見えない摩耗のオンライン計測に使用できるのではないかと提案した。