神戸製鋼所は、造船分野における水平すみ肉溶接(直交する鋼板の角に溶接する三角形状の断面を持つ溶接方法)において、1回の溶接操作(1パス)で8mm程度の脚長(溶接継手のルートからすみ肉溶接の止端までの距離)が得られ、かつ、良好な溶接ビード形状を実現する軟鋼用フラックス入りワイヤ「FAMILIARC MX-200F」を今月より販売開始した。同品は、一般財団法人日本海事協会の「業界要望による共同研究」スキームを通じて、同協会、新来島どっくとの共同研究により開発された。
近年、船舶分野では、IACS共通構造規則(CSR)やIMO塗装性能基準(PSPC)により強度設計や塗装施工基準が厳格化の傾向にある。船体構造の高強度化による鋼板の板厚増加に伴い、溶接脚長も、部材によっては6mmから8mmへの要求も増えてきている。
従来の水平すみ肉溶接用ワイヤにおいて、1パスで8mm程度の脚長を確保するには、溶接条件が厳しく、高度な技能が必要となり、加えて、溶接ビード形状についても、アンダカット(溶接の止端に沿って母材が掘られて、溶接金属が満たされず溝となって残っている部分 )の発生などにより塗装性にも悪影響を及ぼしていた。このため、8mm程度の脚長と良好な溶接ビード形状を得るためには、2パスでの溶接が必要となり、作業効率面で課題となっていた。
こうした中、造船業界からの要望により本共同研究を開始し、溶接ビード形状と塗装膜厚との関連性の研究をもとに、水平すみ肉溶接のビード形状に影響を及ぼす溶融スラグの粘度と凝固温度の最適化を図ることで、1パスで8mm程度の大脚長溶接を可能とし、溶接作業効率と塗装性の向上が期待できる同品を開発した。
同品は、既に別途所定の試験を実施のうえ、日本海事協会の材料認定を取得し、4月より販売を開始している。