東レは、独自のコーティング技術により最大成形伸度300%という高い易成形性と優れた耐傷性を両立し、長期間使用しても光沢感が持続する自己修復コートフィルムを開発した。電子機器、家電製品の外装用や、自動車内装用などの加飾成形フィルムを中心に、用途開拓を進める。
加飾成形の分野では、スプレー塗装以外の方法として「インサート成形」など、フィルムを用いる成形の採用が拡大している。またこのような成形に用いられるフィルムには、複雑な立体構造にも追従する伸びの良さ(易成形性)の要求が高まっている。さらに、ピアノブラックなどの強光沢表面が注目されており、フィルムには光沢を維持するため、製品の製造工程や日常生活での使用時のすり傷の付きにくさ(耐傷性)も求められている。
現在、成形用フィルムとしては、ポリエステルやポリカーボネート、アクリルなどの熱可塑性フィルム基材に、硬いコート層を設けた「易成形ハードコートフィルム」が広く用いられている。しかし、最大成形伸度300%が求められる領域で使用できる従来の易成形ハードコートフィルムは、伸びの良さを維持するためコート層を充分に硬くすることが困難であり、日常生活の使用環境下で微細なすり傷が生じやすく、長期間使用するとフィルム表面の光沢が低下するという課題があった。
これに対して同社は、独自のコーティング技術を進化させることで、最大成形伸度300%という高い「易成形性」を持ちながら、従来よりも「耐傷性」を飛躍的に向上した自己修復コートフィルムの開発に成功した。開発の技術ポイントは二つ。一つは、コート層表面の「微細海島構造」による耐傷性の強化。自己組織化技術により、コート層の表面に高速での衝突に有効な“すばやく弾性回復する組織”と、大きな力での衝突に有効な“緩やかに弾性回復する組織”からなる「微細海島構造」を導入し、コート層の自己修復機能を大幅に強化した。この“復元力が高い組織”によりコート層の耐傷性を一段と向上することで、様々な条件下での長期間の使用においてもフィルム表面の光沢が持続する。
もう一つは、コート層の「厚み方向傾斜構造」による易成形性の強化。成形工程でのフィルムの変形過程の解析から、コート層とフィルム基材間の界面が成形時の伸びの良さに影響に及ぼすことを見出した。「厚み方向傾斜構造」の導入により、コート層の基材側を「易成形性」に必要な伸びの良い組織、コート層の表面側を「耐傷性」に必要な復元力が高い組織に“継ぎ目なく変化させる”ことで、鉛筆硬度2Hの易成形ハードコードフィルムよりも高い耐傷性を達成しながら、300%の成形伸度を実現した。これにより、複雑な立体形状にもスムーズに追従でき、マッチモールド、圧空、真空、インサート成形などの高伸度成形に対応が可能になる。