東京理科大学、トライボロジーセンターを開設
東京理科大学は東京都葛飾区の葛飾キャンパスに「トライボロジーセンター」を設置、4月27日にオープニングセレモニーを開催した。東京都立産業技術研究センター(都産技研)と連携して、日本の製造業の基盤である金属、鋳造、金属加工等の技術課題の解決を支援するほか、将来的に航空・宇宙分野など、高い精度を求められる分野への参入を目指す企業を支援する目的で開設したもの。センター長には、同大学・佐々木信也教授が就任した。
東京理科大学ではトライボロジーを専門とする機械工学系の三つの研究室が活動しているほか、同大学総合研究機構にはトライボロジーの基礎となる界面科学研究部門が設立されているため、物理・化学系、材料系の多数の研究室がトライボロジーセンターに参画・連携できる。さらに、公設試との連携により、都産技研の高度な計測機と理科大のトライボロジー関連評価試験機を相互利用でき、質の高い迅速なサービスを提供できるほか、中小企業を交えた産学公による共同研究を実施できる。また、中小企業からの技術相談に対する共同対応なども可能になる。
地域オープンイノベーション促進事業
地域オープンイノベーション促進事業は、我が国における成長産業の育成を目指しつつ、地域企業によるイノベーション創出を促進するため、地域の中核的な試験研究機関や大学等の基盤整備を行う事業。地域オープンイノベーション促進事業で確実に成果が達成できるよう、関東地方産業競争力協議会区域で特定された戦略分野のうち「航空機関連産業分野」に沿って関東地域の運営協議会で地域の技術シーズや社会・市場ニーズを基に決定した設備機器を、地域の中核的な試験研究機関や大学などのうち公設試験研究機関(公設試)に整備するとともに、広域的な利活用を行うもの。今回開設されたトライボロジーセンターは、同事業に採択され、設立された。
事業(オープンプラットフォーム)の概要
- 技術移転
高い加工技術を有する中小企業が航空・宇宙分野に参入する上で、トライボロジーは回避できない技術課題であるとともに、差別化の大きな武器になる。地域連携により、大学の持つ「知」と公設試などの「技術ノウハウ」を融合し、一貫した技術を中小企業に提供することで、イノベーションを促進する。 - 人材育成
トライボロジーの基礎技術とともに、材料技術、形状、特殊工程、さらには航空関連法、品質保障体系、航空機規格認証といった、航空機産業特有の高度な専門教育の場を提供する。 - 整備する設備
3次元形状測定装置など、トライボロジー現象解明や評価・分析に関連した装置・機器類を整備する。
トライボロジーセンター設立の背景
- 中小企業の状況
東京都には大田区や葛飾区など小規模ながら高度な技術を持つ金属加工や熱処理など日本の産業基盤の礎をなす企業が多い。しかし近年、産業のグローバル化の波に押され、中小製造業の競争力が低下、このままでは産業の基盤を支えてきた中小製造業が衰退し、日本の産業基盤に大きな打撃を与えかねない状況となっている。 - 東京理科大学の目指す姿
東京理科大学では2013年4月に葛飾キャンパスを新設、地域活性、産学官連携体制の強化と中小製造業の競争力向上、我が国の産業成長戦略への貢献などを目的としたイノベーションの拠点を目指し計画を進めていた。今回、この計画の一環として「トライボロジーセンター」を設立、イノベーション拠点として大学の知見を活用し、中小製造業が保有する自動車関連や電気・電子関連技術をベースに、成長が見込まれる航空・宇宙関連産業への参入を支援、中小製造業の再生と新たな成長戦略の実践に貢献する構え。
事業を支える関連設備
トライボロジーセンターでは、地域オープンイノベーション促進事業のうち「大学におけるオープンプラットフォーム構築支援事業」の1億円強の補助金などを活用して、事業を実施する上で必須となる金属粉末造形機や3次元形状測定装置、分子間相互作用解析装置、全自動微小硬さ計、精密切断装置、表面エネルギー測定装置などの設備を導入したほか、佐々木研究室の既存設備などを活用する。主な設備は以下のとおり。
- 金属粉末造形機「ProX300(キヤノンマーケティングジャパン)」…実際の部品開発に際し、設計・試作・性能評価・改善のPDCAサイクルを迅速に実施するため、難加工性金属材料を用いた部品や金型の製造技術の開発や最適化に必要な装置。
- エアーブラスト SAM-6(ニッチュー)…コンプレッサーで作った圧縮エアーを使って各種の投射材をノズルから噴射する環境に優しいブラスト装置で、表面改質やテクスチャリング創成などに利用できる。サクション式/直圧式。フットスイッチで噴射制御できる、低価格で高パフォーマンスな汎用機で、家庭用電源100Vで使用可能。高さ1560㎜×幅500㎜×奥行650㎜のコンパクト設計。キャスター付きで、移動や配置換えが簡単。集塵機一体型。
- 3次元形状測定装置(キーエンス)…試作した部品の形状検査や品質の保証、摺動試験後の摩耗量評価に最適な装置。
- 分子間相互作用解析装置(メイワフォーシス)…摺動表面と潤滑油との界面での吸着特性や粘弾特性を測定することで、摩耗機構の解明とトライボロジー特性向上のための指針を得る上で必要な装置。
- 精密切断装置(メイワフォーシス)…性能評価や機器分析のために試作部品などを切断するために必要な装置。
- 表面エネルギー測定装置(メイワフォーシス)…試作部品や金型表面での潤滑剤の濡れ性や剥離性の評価に必要な装置。
- 全自動マイクロビッカース硬度計HMV-G(島津製作所)…金属粉末造形機で製作した部品や金型表面の硬さや摺動表面の硬さの変化を測定するために必要な装置。
- 振動摩擦摩耗試験機 SRV試験機(パーカー熱処理工業)…振動と回転の二つの基本動作を同一プラットフォームで試験できるデュアルモーション機能を持つ。ドイツ工業規格(DIN)と米国材料・試験協会規格(ASTM)に準拠し、潤滑油剤のスクリーニング試験機として業界標準になっている。試験チャンバー内の温度、気圧、湿度の環境制御が可能で、最近では軸受やピストンリングなど表面改質された部材の評価などで適用を広げている。特に低摩擦・耐摩耗性を付与するDLC膜の潤滑油介在下での評価関連などで導入が進んできている。