メインコンテンツに移動
第9回ものづくりワールド名古屋

 

理化学研究所、微粒子ピーニングとELID研削で凹みと平坦部を周期的に持った表面を形成

 理化学研究所 大森素形材工学研究室の大森 整主任研究員と、東京都市大学工学部機械工学科の亀山雄高准教授らの共同研究チームは、微粒子を投射して金属表面を改質する微粒子ピーニング(Fine Particle Peening:FPP)と精密研削を組み合わせた独自の機械的手法で、凹みと平坦部を周期的に持った金属表面を形成する加工法を開発した。

 従来、金属材料にこのような微細構造を形成する方法として、化学エッチングやレーザ加工などの技術が試みられてきた。しかし、前者では非加工部のマスキング(保護)が必須である点、後者ではレーザをスキャンする装置とプログラムを必要とする点などにおいて、改善の余地があったという。一方、共同研究チームは、金型、光学部品、医療用部品などをターゲットに、高機能な表面創成を効率よく行う機械的、電気化学的手法の研究を進めており、今回、金属材料の表面に微細構造を形成するための技術として、微粒子を材料表面に対して斜めから投射(Angled-FPP)し、その後精密研削を行うことで凹みと平坦部が周期的に配列された微細構造の形成を実現した。

 具体的には、まずAngled-FPPを適用することで創成される凹凸のパターンが傾斜角によって変化することを特定し、微粒子ピーニングの諸条件によって凹凸の状態やその間隔、方向性が一定の範囲内で制御可能であることを確認した(図1)。傾斜角と凹凸の創成形態の関係については、衝突した微粒子によって被加工物表面に形成される変形痕が自己組織的に配列した結果であると考えられている。凹凸の間隔としておよそ100~200μm、深さとしておよそ10~20μmが得られている。

図1 Angled-FPPにより創成された表面の様子図1 Angled-FPPにより創成された表面の様子

 次に、Angled-FPPによって得られた凹凸を持った表面に対して精密な研削を施すことで、凸部のみ精密に平坦化する「プラトー化加工」が実現できることを確認した。この精密研削には、同研究所独自の発明技術であるELID研削法を適用した。研削量の精密な調整により、凸部の除去高さや残留する凹みの深さ、平坦部の面積の制御が可能であることを確認した(図2)。また、平坦部の割合を変化させることによって、その表面が示す摩擦特性を調整可能であることを示した(図3)。

図2 精密研削による平坦化を施した表面の凹凸解析結果図2 精密研削による平坦化を施した表面の凹凸解析結果

図3 表面平坦化の違いによる摩擦係数の相異図3 表面平坦化の違いによる摩擦係数の相異

 さらに共同研究チームは、Angled-FPPを適用したアルミニウム合金に対しELID研削を施すことによって、作製された凹みに異種金属を析出できることも確認した。これは、素材金属とのイオン化傾向の差に起因して、研削液中に含まれていた金属イオンが析出したことによるものと考えられるという。この作用は、ある優れた性質を示す物質を材料表面にパターン状に付加するのに有効だという。例えば、水周りなど細菌の繁殖しやすい環境で使用される材料では、特に凹み部へ細菌が付着しやすいことが知られており、このような部位に抗菌性を示す銀や銅を析出させれば、細菌付着を抑制できると期待される。

 この研究で得られた成果は、一層の低摩擦化が必要となる電動アクチュエータのスライド部品、低摩擦・耐摩耗性と抗菌性とが要求される医療用インプラントの表面などへの応用が期待できるという。摩擦特性の調整以外にも、周期的な微細凹凸をもつ表面はさまざまな効果を発揮する。例えば、ある種の凹凸構造は細胞の活動を促すことが知られており、今回開発した加工法で適切な凹凸構造を形成できれば、再生医療用の細胞培養プレートなどへ応用できる可能性がある。また、液体に対する濡れ性の調節や流れの調整などにも効果があると考えられることから、より高効率な熱交換器や、表面に汚れが付きにくくなる性質の付与などへも応用が期待できる。