グラフェンナノリボンの、走査型トンネル顕微鏡と原子間力顕微鏡の観察例:観察用の端子(探針)と試料の相互作用力を非常に低くして観察したのにも係わらず、試料が動いた観察図。矢印先端のところが2重に映像化されているところが動いたことを表している。 科学技術振興機構( http://www.jst.go.jp/ )は、炭素原子一層の薄膜であるグラフェンナノリボン(帯状構造)と金の表面間に生ずる超潤滑現象の観察ならびにそのメカニズム解明に成功したと発表した。将来的に、グラフェンを表面にコーティングすることで機械部品の摩擦を低く抑える固体潤滑剤技術の実現につながることが期待できるという。
通常、材料間の接触面ではそれぞれの材料を構成する原子が互いに吸着する方向に動いて位置合わせを行い、それが摩擦力の増加となる。しかし、炭素薄膜は構成している炭素原子間の結合力が非常に高く、原子は殆ど動かない。このため接触面での原子の位置合わせが行われず、炭素薄膜表面では、非常に小さな摩擦しか起きないことが理論上推定されていた。しかし、現象の直接観測と材料双方の原子構造が明らかな試料を得ることが難しいためそのメカニズムは分かっていなかった。
今回の研究では、炭素原子同士の結合が直接観察できる新しい顕微鏡技術を確立するとともに、グラフェンナノリボンを原子構造が明らかな状態で金の基板上に作成する技術を開発し、直接観測とそのメカニズム解析に成功した。グラフェンナノリボンを構成している炭素原子間の結合力が非常に高いため、金と接触している炭素原子はほとんど動かず、摩擦力が極端に低くなることを実験で証明するとともに、その実験結果と超潤滑現象を表す計算結果が一致することを明らかにした。
将来的に、炭素薄膜を用いたコーティング材の実現により、部品同士の摩擦により発生する熱や摩耗が押さえられる、エネルギー損失を抑えた機械部品の実現につながることが期待できるという。