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SEMICON Japan 2024

 

産総研、3次元物体表面にCNTを成長させる簡便な方法を開発ー粒子ブラスト法により担持層形成

 産業技術総合研究所( http://www.aist.go.jp/ )は、マイクロフェーズ( http://www.microphase.jp/ )と共同で、多層カーボンナノチューブ(CNT)を金属や炭素材料からなる3次元物体の表面に成長させる方法を開発した。この方法では、化学気相成長法(CVD法)によるCNTの成長に必須である金属触媒の担持層を、従来のスパッタリング法ではなく大気雰囲気中で容易に行える粒子ブラスト法により形成することに世界で初めて成功した。

 近年、CNTの反射率がほぼゼロである特性に着目し、CNTを遮光材や発光体に利用する試みが注目されている。しかし、汎用的な光学機器の内部にCNTが遮光材として使用された例はない。これは、従来のCNT成長法がスパッタリング法のような真空中で行う高度な表面前処理を必要とするため、成膜できる物体の形状が制限されるからだという。

 今回開発した成長法は、様々な金属や炭素材料の3次元形状の物体表面に、スパッタリング処理せずに多層CNTを簡便に成長させることができる。この技術により、例えば、円筒形状のレンズ鏡筒内部に多層CNTを直接成長させて鏡筒内の散乱光を大幅に抑制することでカメラや天体望遠鏡の解像度・光感度を大幅に向上させることが期待される。また、本技術は、単層CNTと多層CNTのどちらの成長にも必要である金属触媒の担持層の成膜に簡便で低コストの粒子ブラスト法を用いており、その条件の制御により成長するCNTの特性を制御できる可能性があり、CNTの新しい成長法として幅広い応用が期待される。

内部に突起があるタングステン(W)製のるつぼの断面図と、内面に多層CNTを成膜する前後の写真:多層CNTの光の吸収率がほぼ100 %なので突起が視認できない。内部に突起があるタングステン(W)製のるつぼの断面図と、内面に多層CNTを成膜する前後の写真:多層CNTの光の吸収率がほぼ100 %なので突起が視認できない。

 今回開発した手法を用いて、光学機器の内部や放射温度計の校正に用いる標準光源である黒体炉の内壁等に多層CNTを成膜する技術を民間企業と協力して実用化するとともに、これらの機器が関係する測定・観測技術の高度化を目指す。また、粒子ブラスト法によるCNT成膜方法のメカニズムや、成膜した触媒担持層の構造とCNTの特性との関係を明らかにし、CNTを利用した電子デバイスや複合材料の開発に寄与するとともに、将来的には、本手法を発展させて単層CNTの成長も目指す。