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第9回ものづくりワールド名古屋

 

第29回ISO/TC 107会議におけるカーボン膜・DLC膜の規格化と今後の展望

(一社)DLC工業会 理事
ナノテック㈱ 取締役 表面分析センター 試験所長
平塚 傑工

1.これまでの経緯

 用途により適切にDLC膜を選択するには、定義や分類方法を規定し、評価手順の確立を行う必要がある。そのため現在、一般社団法人ニューダイヤモンドフォーラムを中心に、国際標準化の取組みが行われている。テーマとしては、DLC膜の分類、摩擦摩耗試験、光学特性評価がある。DLC膜の規格化は、ISO/TC 107において提案され審議されている。

 摩擦摩耗試験方法は、ボールオンディスク法による試験の規格作成をした。摩擦摩耗の現象は、温度・湿度等による影響が大きく、DLC膜の摩擦係数にも変化がある。規格中には、温湿度を規定しDLCの摩擦係数測定方法と摩耗量測定方法に関して記載した。本規格は、ISO 18535として2016年3月に発行された。

 光学特性評価方法は、分光エリプソメトリーによる試験の規格化を検討している。DLC膜の屈折率と消衰係数は、成膜方法や構造に関係しているDLC膜の種類によって異なる。屈折率や消衰係数などの光学的特性を用いることによって、DLC膜のタイプ分類ができた。また、DLC膜の屈折率はその硬度に比例することが分かった。本手法は、DLC膜の膜厚と膜質を同時に非破壊で品質管理できる方法として有用であり、各種用途に対応して利用されてきている。現在、国際ラウンドロビン試験を実施している。今後、結果の対比などを行い規格案の議論を含めて国際規格作成のための対応をしていく予定である。

 カーボン膜全体を含めたDLC膜の分類に関する規格案の提案については、平成27年にドイツと日本により共同で行われた。その後、協議を進め規格内容の調整が行われている。

 DLC膜の分類が進み各種分野で使い分けられてきている。

2.第29回のISO/TC 107国際会議

 2017年1月16日~20日に第29回の「The Plenary Meeting of ISO/TC 107」が、千葉県の柏の葉カンファレンスセンターで開催された(図1)。全参加者人数は、90人程度で、参加国は、日本、韓国、中国、フィンランド、イギリス、ドイツであった。

図1 ISO/TC 107会議のもよう(千葉・柏の葉)図1 ISO/TC 107会議のもよう(千葉・柏の葉)

 DLC膜を含むカーボン膜の規格化は、ISO/TC 107(金属)において提案され審議されている。

 摩擦摩耗試験方法は、本国際会議において、TC107事務局よりISO 18535として「Determination of friction and wear characteristics of Diamond-Like carbon thin films by ball-on-disc method」が2016年3月にISO規格として発行されたことが示された。

 1月17日にこのカーボン膜関連に関して、東京工業大学の大竹尚登教授より「ISO/CD 20523 Carbon based films–Classification and designations」に関してプレゼンテーションが行われた。本規格は、ドイツとの共同提案で今回はCD段階における回答案に関して説明がなされた。今後、DIS段階への投票がなされる予定である。

 光学的評価方法は、1月17日にこの国際ラウンドロビン試験に関して、ドイツのBundesanstalt für Materialforschung und –Prüfung (BAM)よりBeck博士がプレゼンテーションを行った。日本とフランスとドイツの結果は、試験機器の違いがあるにもかかわらず、測定結果が一致しており本規格の有用性が示された。続けて、筆者より規格案として「New Work Item Proposal of Determination of optical property of diamond-like carbon films by spectroscopic ellipsometry」の発表を行った。

 今後ドイツとの規格案の議論を含めて3ヵ月以内に国際規格提案(NWIP)の作成のための対応をしていく予定である。

 DLC工業会としても本会議に参加し、カーボン膜を中心としたDLC膜を含めた各種応用が日本を中心に世界へ発信される良い機会となったと考えている。

 カーボン膜に関しては、今回の国際会議により規格化へ着実に前進している。ドイツとの連携は本会議で明確になり、このまま協力関係を維持していきたいと考えている。

 中国から提案のあったPVDに関するSC設立提案は、賛成が中国と韓国となり2票、それ以外の国は棄権が4票となった。日本としては、カーボン膜が含まれない状況であり明確な反対の必要性はないと考えているが、ISO/TC 206と重なる部分もあるので気を付けて対応していきたいと考えている。

 一般社団法人DLC工業会のシュピンドラー 千恵子氏からは、日本提案のカーボン膜に関するWG設立提案が行われた。今後WG設立の賛成票が増えるように各国への調整を継続していきたいと考えている。

3.光学特性評価法規格案について

 平成27年度までは、DLC膜の光学分類方法として“The Classification method for Diamond-Like carbon films by spectroscopic ellipsometry”の規格案を作成し、ラウンドロビン試験用の手順書としてTC107より正式に配布(ISO/TC107 N1687)した。国際ラウンドロビン試験の結果を入手後に平成28年11月にドイツへ訪問をし、規格案に関して議論を行った。ドイツ側からは測定方法としての再現性に関しては一定の理解が得られたものの、水素含有量や構造との因果関係に関しては、ドイツ側の評価では検証できなかったと回答があった。そこで、合意案としては、測定方法に焦点を当てた規格として“Amorphous carbon films — Classification of optical property of amorphous carbon films by optical properties using spectroscopic ellipsometry”にタイトルを変更した。

 現状の規格におけるDLC膜の光学的分類は表1図2のように規定している。この旧規格案ではta-C:Hの範囲が狭く、そこに当てはまるDLC膜を作製することは容易ではない。本分類部分に関しては、最終的に各国と協議の上決定したいと考えている。

4.国際ラウンドロビン試験

 イオン化蒸着法、スパッタ法、アーク法、プラズマCVD法により成膜されたDLC膜サンプルについて、分光エリプソメトリー法を用いて屈折率と消衰係数を解析した。DLC膜の屈折率と消衰係数は、成膜方法や構造に関係しておりDLC膜の種類によって異なる。これまでの研究により分光エリプソメトリー法により測定された屈折率や消衰係数などの光学的特性を用いることによって、DLC膜のタイプ分類ができた。そこで、分光エリプソメトリーによるDLC膜光学的評価に関してISO規格案をNP提案として採択されることを目指すために、国際的なラウンドロビン試験を実施した。平成27年10月に各国に対して正式にTC107を通じてレターと測定手順書を配布して、国際ラウンドロビン試験の呼びかけを行った。平成27年11月20日までに参加の返事を依頼し、その結果ドイツのみが参加の意向を示した。フランスに関しては、株式会社堀場製作所を通じてジョバイボン社へ連絡を行い参加の意思を確認した。その後試料は、平成27年12月20日までにDLC膜として6種類(ta-C, a-C, ta-C:H, a-C:H, GLC, PLC)を送付した。

 6種類のDLC膜について、ドイツのFraunhofer ISTとBAM、フランスのHORIBA Jobin Yvonが分光エリプソメトリー試験により膜厚、屈折率と消衰係数の測定を実施した。

 測定結果から、各国の試験機関、試験機、測定機器の仕様が違ったとしても、その測定結果は非常に再現性が良いことが分かった。屈折率と消衰係数は算出できるため、それを用いた品質管理や光学定数の測定方法としては有用であることが各国の認識として一致することができた。

5.DLC工業会と今後の活動

 DLCコーティングは様々な産業で適用が拡大し、ユーザーの関心も高まっており、さらなる適用拡大および国際標準化への取組みの支援を行う組織が必要になる。

 DLC工業会設立準備室は、一般社団法人ニューダイヤモンドフォーラムのDLC標準化特別委員会の活動を経て、DLC産業の発展のために「DLC工業会」を設立した。その第1歩として、平成28年6月に一般社団法人としての登記を終え、その後、工業会の具体的な組織作り等を進めるとともにDLCに関わる企業等の会員の募集を行い、平成29年度には「一般社団法人DLC工業会」の正式活動を開始する予定である。

 本会の目的は、DLC産業界の発展、新規格を利用した産業界の活性化、関連機関・団体との交流や国際交流、エンドユーザーとの連携活動、促進である。

 想定している会員は、DLC関連企業(装置メーカー、受託加工業、DLCユーザー)、薄膜等評価分析関連企業、その他のDLCに関心がある企業で多くの企業の参加を期待している。

 工業会としては、会員が以下のようなメリットが得られる体制を整える計画である。
①国際標準策定への参画により、自社保有技術を世界に提案できること
②同プロセスを通じて、利用側ニーズを反映できること
③製品、サービスの国内外販売が容易になること
④規格化により、部品調達/組立等のコスト削減が可能になること
⑤新技術動向の情報の入手が容易になること
⑥関係の研究者や技術者との交流が図れ、大学や各種研究機関との連携促進が図れること
⑦DLCメーカー、評価装置メーカー、評価試験所、ユーザー等の間で情報共有が可能になること
⑧テーマに応じて産業化を加速する共同実施者を容易に探索できること
⑨「業界規格」、「業界基準」を制定していくことができること
⑩上記規格の適合証明書の発行が受けられること
 国際規格化を通じて世界の共通の指標を作ることで、ユーザーとメーカーが共通の言葉でDLC膜を活用することができ、本分野の発展に貢献できると考えている。

 今後、これらの試験規格に基づいた測定が、ISO/IEC 17025の認定を受けた試験所等で実施され、測定方法として広く利用されていくと考えている。

 DLC成膜技術は、世界的問題である温室効果ガスの低減に非常に重要な技術であり、DLC工業会を通じて本技術のさらなる発展につなげていきたい。

編集部注)本稿はメカニカル・サーフェス・テック2017年4月号掲載の原稿に一部修正を加えました。