表面技術協会、第69回通常総会・協会賞など授与式を開催
表面技術協会( http://www.sfj.or.jp/ )は2月28日、東京都千代田区の弘済会館で「第69回通常総会・各賞授与式」を開催した。
当日は第68期事業報告、会計報告が行われた後、第69期事業計画・収支予算について審議、満場一致で可決された。事業報告では、春季および秋季講演大会で合計発表件数309件、登録参加者が881名であったこと、セミナーとして「表面処理基礎講座」のほか、「めっきプロセスの基礎と評価実習」、「ドライプロセスの基礎と薄膜作製」などを開催し、参加者合計が307名であったことなどを報告した。事業計画では、春に芝浦工業大学(豊洲キャンパス)、秋に北海道科学大学で講演大会を開催することや、ISO規格検討専門委員会においてISO/TC107からの提案事項の審議を行うことなどを確認した。
任期満了に伴う役員改選では、今期より会長に柴田正実氏(山梨大学 大学院総合研究部 教授)、副会長に井手本 康氏(東京理科大学 理工学部 教授)、川口 純氏(日本カニゼン 代表取締役社長)が新たに選任された金森秀一氏(オジックテクノロジーズ 代表取締役社長)、益田秀樹氏(首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 教授)は前期に引き続いて副会長を務める。
会長に就任した柴田氏は「当協会は70年近い歴史を持っており、社会に対して広く貢献してきた団体である。そうした協会の会長に選任され、身の引き締まる思いだ。先ほどの総会の会計報告であったとおり、皆様のご尽力もあり一時期の厳しい財政状況に比べて非常に好転している。特に里見・影近元会長がリーダーシップを取り、財務の改善に尽くされたことが現在の状況をつくっているのではないだろうか。ただ、順調なものの、まだ病み上がりの状態であると思っている。今後、財務を注視しながら一層なる協会の活性化に努めていきたい。また、渡部前会長の申し送りになるかもしれないが、会員増強は大きな課題となっている。これは私が初めて理事を務めた時から毎年大きなテーマになっている。日本の学協会すべてに言えることだが、当協会においても関係する委員会で知恵を絞って努力していきたい。さらに、2020年に当協会は70周年を迎える。同年には記念行事などあるが、私の任期期間はその下準備をしっかりするということに尽きる。先は長いが100周年を見据えて今何をすべきかを理事会のメンバーとともに考えていきたいと思っている」と就任の決意を述べた。
当日の席上では、「平成30年度 表面技術協会―協会賞・功績賞・論文賞・技術賞・進歩賞・技術功労賞―授与式」が行われ、興戸正純氏(名古屋大学 未来材料・システム研究所 所長・教授)が業績「軽金属の表面改質に関する研究および生体材料への応用」で協会賞を受賞した。興戸氏は、化合物半導体膜の電析、耐食性付与のための化成処理、電気めっき、水素吸蔵合金膜の合成など、表面改質技術に関して多くの業績を挙げた。今回受賞の医療分野では、材料の表面階層構造を厳密に制御することが材料の生体活性をコントロールする最重要キーポイントとなる点に注目し、表面修飾した材料の物理的因子と生化学的因子の関係を生体内・外から明らかにし、硬組織・軟組織生成能を左右するインプラント表面の階層構造制御の深化を達成した。また、超親水化したチタンには細胞接着性タンパク質が吸着し、硬組織生成能が著しく改善することを明らかにし、新生骨生成能が低いと考えられてきたジルコニウムを含む高耐食性合金、低耐食性のマグネシウム合金、抗菌性銀添加合金、ジルコニアなどのセラミックス、PEEK等のポリマーのような多くの固体の生体親和性付与に展開してきた。
論文賞では、小畠淳平氏(大阪産業技術研究所)ら6名が「チャンネル型微細溝を有したPVD硬質厚膜の形成とその摩擦特性」で受賞。著者らは湿式めっきとPVD法によるドライコーティングの複合プロセスにより、硬質膜の表面に半球状の微細孔を多数形成することで保油性を高め、膜の潤滑特性を向上させる技術を開発したが、形成できる膜厚の限界、潤滑面においても向上が求められていた。この論文では、問題点を改善する方法として、硬質Crめっきを施した後、同めっきに内在する網目状の超微小なクラックをエッチングによりマイクロスケールに拡張させ、微細で連続的な網目状の溝(チャンネル型の微細溝)を形成し、その上にPVDによるCrN膜を成膜することで、内部まで連結したチャンネル型微細溝を有するPVD硬質厚膜の形成について述べている。また、実用化を視野に入れたピンオンディスク試験および円筒深絞り試験によって、潤滑油維持によるその優れた摩擦特性を明らかにしている。
技術賞では、越智文夫氏(デンソー 材料技術部 課長)ら6名が「自動車の環境負荷低減に寄与するコーティングの開発」で受賞。この技術は、CrNおよびDLCのドライコーティングにおいて「成膜条件」と「膜質」との関係を詳細に調査し、理論と実車の両面から検証を進め、密着性と耐摩耗性に優れるCrNおよびDLCの安定成膜技術を確立し、世界最高圧のディーゼル・ガソリン燃料噴射システム実現に寄与したもの。これらの技術を適用した製品は1998年~CrNを、2005年~DLCを量産し、これまでCrN部品を2億3千万個、DLC部品を1億9千万個生産し、自動車の環境負荷低減に大きく寄与している。同技術の開発と応用について、特許、論文、学会発表などで積極的に発表するとともに、大規模な製造実績を積み上げ、自動車の環境負荷低減に寄与したことやドライプロセスによるコーティングが他分野でのさらなる展開につながることが期待できる点などが評価された。
受賞者、業績などの一覧は以下のとおり。
協会賞
・興戸正純氏(名古屋大学 未来材料・システム研究所 所長・教授)
業績「軽金属の表面改質に関する研究および生体材料への応用」
功績賞
・馬場 茂氏(成蹊大学 名誉教授)
・馬飼野 信一氏(神奈川県立産業技術総合研究所 研究顧問)
論文賞
・小畠淳平氏(大阪産業技術研究所)、三浦健一氏(同)、四宮徳章氏(同)、森河 務氏(オテック)、原野知己氏(同)、森本泰行氏(同)
題目「チャンネル型微細溝を有したPVD硬質厚膜の形成とその摩擦特性」
(表面技術 第67巻 第8号 440~446頁)
技術賞
・越智文夫氏(デンソー 材料技術部 課長)、菅原博好氏(同 室長)、南口経昭氏(同 ガソリン噴射製造部 課長)、井邉光隆氏(同 材料技術部 課長)、大山和俊氏(同 ディーゼル噴射製造部 係長)、藤田翔兵氏(同 材料技術部 係長)
業績「自動車の環境負荷低減に寄与するコーティングの開発」
進歩賞
・星 芳直氏(東京理科大学 理工学部 講師)
業績「3Dインピーダンス法による鋼板および亜鉛めっき鋼板に形成されたクロメート皮膜の自己修復速度解析に関する研究」
(表面技術 第67巻 第9号 494~498頁ほか)
・國本雅宏氏(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 次席研究員/助教)
業績「電解・無電解析出反応機構の分子レベルからの理論的解析」
(表面技術 第66巻 第12号 666~669頁ほか)
技術功労賞
・渡辺正樹氏(三進製作所 生産技術本部 技術部 設計課)
・吉岡明人氏(新日鐵住金 技術開発本部 尼崎研究支援室 薄板係長)
・上山三雄氏(東洋パックス 検定部)
・大村英雄氏(東洋鋼鈑 技術研究所 研究部 薄板材料グループ)
・三浦忠栄氏(JFEスチール 東日本製鉄所 企画部 IEソリューション室)
会員増強協力者
・石崎貴裕氏(芝浦工業大学 工学部 教授)
・君塚亮一氏(JCU 代表取締役社長)
・野田和彦氏(芝浦工業大学 工学部 教授)
・伴 雅人氏(日本工業大学 工学部 教授)