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第9回ものづくりワールド名古屋

 

ノーベル賞受賞者・中村修二氏に聞く:ベンチャーマインドで世界相手にビジネスの推進を

 2014年ノーベル物理学賞を受賞したカリフォルニア大学 サンタバーバラ校 教授 中村修二氏は近年、人体に優しい紫色LEDを使った、太陽光に近い白色LEDの開発と実用化を推進、米国と日本でSORAA社など同技術を商業化するベンチャー企業を運営している。先ごろトライボロジー特性を高めるコーティング技術を表彰する「第10回岩木トライボコーティングアワード(岩木賞)」で国際賞・事業賞の同時受賞に輝いた同氏に、技術者としてのあり方や研究の進め方などについて、話を聞いた。
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 教授 中村修二氏カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 教授 中村修二氏

―技術者にとって「いかに作るかよりも、何を作るべきか」が重要との持論ですね。技術者が「何を作るべきか」を知って売れる技術を手掛けるプロセスについて教えてください

 1979年に日亜化学工業に入社してから青色発光ダイオード(LED)の開発に着手するまでのLEDに関する知識と技術・技能の10年間の蓄積が基盤としてあって、たどり着けたものだ。LED用原料の結晶成長からLEDランプの開発を成功させた経験がある一方で、営業活動も手掛け顧客と接する中で「開発しても売れなければ意味がない」という苦い経験もした。

 何より重要なことは、そうした勉強・蓄積をもとにして「誰もやらない材料、誰もやらない製品、誰とも違う手法」を手掛けるという「ギャンブル性」だと考える。他と違うということが非常に重要で、確実に売れる製品として青色LEDの開発に着手した当時、大手企業の研究者などの多くが結晶欠陥の少ないセレン化亜鉛(ZnSe)に着目したのに対して、私は常識的に考えれば選択されることのない、結晶欠陥の多い窒化ガリウムを選んだ。博士号取得に向けた論文テーマとしては発表が少なかったこともあって「ギャンブルに出た」ものだが、日亜化学工業創業者で当時社長だった小川信雄氏がベンチャーキャピタリストとなって手放しで支援してくれた。誰も手掛けていない開発テーマを選ぶことはハイリスクではあるものの、ハイリターン、つまり大きな成功が得られる可能性もある。そうしたギャンブルに出るには相当な決心、ベンチャーマインドといったものが必要になるが、そうしたリスクを取って開発されたインジウム窒化ガリウム(InGaN)結晶ベースの高輝度青色LEDはその後、大きな売上をもたらすこととなった。

― ベンチャーの必要性を強調されていますね

 米国の工学系の大学では自らの研究資金を稼ぐ必要があり、私自身もベンチャー企業2社を経営し、年間で1億円程度はかかる研究費用を賄っている。

 日本と米国の違いは教育制度の違いだろう。米国では、小学生の時分からアントレプレナーシップやファイナンスなど、自らお金を稼いで社会で生き残るための教育を受けて、成功体験を得ている。だから、日本人のように大手企業に頼ろうという考えは少なく、自分でベンチャーを起こす道を探る。日本でも従来からの大学試験一辺倒の教育から、社会でいかにして生き残るかという教育に移行するべきだと思う。

 日本は今や半導体や家電、太陽電池など、どの産業も地盤沈下している状況だが、社会に出て、自力でいかにして生き残るかという教育を受けていない日本の学生は安定志向に陥り、大手企業に頼ろうとする。そこにはベンチャーを起こすという選択はないだろう。

 共同研究でも同じことがいえる。大手企業といっても寿命はあって、国の税金で延命させることに意味はない。それよりも、誰も手掛けない新しい材料・製品、新しい技術で勝負に出るベンチャー企業と組んだほうが、新しいテーマ、新しい発想で研究開発が進められ、新しい産業創出につながっていくものと考える。

― 日本の研究開発者にメッセージをお願いします

 日本人だからといって、日本の企業のためだけに仕事をしなくてはならない道理はなく、産業界が押しなべて沈んでいく国に留まって、寿命を迎える企業を相手に仕事をする必要はない。米国に限らず、中国、台湾と、世界に仕事場を見つけて飛び出していけばいい。知識・技術・技能を磨き充分な蓄積がなされたら、自分の今後の生活を考えて、会社にただ依存するのではなく、自ら生き残る道を模索し、世界を相手に仕事をしてほしいと思う。