神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC、 https://www.kanagawa-iri.jp/ )は10月24日~26日の三日間、神奈川県海老名市の同研究所で「KISTEC Innovation Hub 2018」を開催し、25日に「トライボロジー技術フォーラム」、26日に「表面硬化部材の組織と力学特性フォーラム」を実施した。
このイベントは、平成29年4月に神奈川県産業技術センターと神奈川科学技術アカデミーの統合によりKISTECが立ち上がり開催されたもの。企業・大学・同研究所をはじめとする公設試験研究機関等で得られた研究・業務成果を紹介することで、研究者・技術者等の交流・技術連携を促し、中小企業の新製品開発、技術力の高度化・研究開発力の向上につなげていくための場として毎年開催していく。
会場となった神奈川県立産業技術総合研究所
トライボロジー技術フォーラムでは、日産自動車の奥田紗知子氏が「低粘度ディファレンシャルギヤ油の省燃費効果とメカニズム解析」と題して講演。二酸化炭素排出量削減のための燃費向上技術として、低粘度化を図りながら耐摩耗性や耐焼付き性を向上するMoDTCを添加した自動車用ディファレンシャルギヤ油を開発した事例を紹介した。開発油は北米車両燃費モード走行における高頻度条件で40%のトルク損失低減を実現。ディファレンシャルギヤの平均的な面圧および摺動速度を想定した条件で四球試験を行いMoDTCの添加効果を検証したところ、現行油と比較すると低粘度化を図っているにも関わらず摩耗を低減できていることを確認した。また、実機摺動実験を模した条件でShell四球昇温試験を行ったところ、MoDTCによる油温上昇の抑制効果を確認したという。
また当日はこのほか、東京工業大学 青木才子氏「表面改質鋼と潤滑油添加剤とのトライボケミカル反応に起因する摩擦摩耗低減効果」、神奈川県立産業技術総合研究所 吉田健太郎氏「エステル系油剤中の炭素鎖長と分岐の有無がDLC膜の摩擦特性に及ぼす影響」、KANO Consulting Office 加納 眞氏「環境調和型潤滑剤とDLCによる超低摩擦特性の自動車部品適用ポテンシャル」の講演が行われた。
表面硬化部材の組織と力学特性フォーラムでは、アイシン・エィ・ダブリュの大林巧治氏が「自動車の大変革と表面硬化技術の進化」で講演。自動車部品は小型・計量化・多機能化などを成立させるために高度化・複雑化しており、これらを実現するためには表面硬化技術の進化がますます重要になっていると解説した。こうした背景に対応する革新的な熱処理技術として、小型真空浸炭処理と高周波焼入れを組み合わせた同社のマイルド浸炭プロセスを紹介。低濃度浸炭タイプ(炭素:0.65%)の同プロセスでは、過剰浸炭も酸化層もなく高周波焼入れにより熱処理歪を低減でき、従来以上に高強度、高精度、高生産性を実現するとした。また、高濃度タイプの同プロセスでは、1μmより小さい炭化物を微細分散させ高温強度の向上を達成しつつ、高レベルで高強度、高精度、高生産性を実現するとした。
また当日はこのほか、東北大学 宮本吾郎氏「窒化処理・浸窒処理における微細組織制御」、横浜国立大学 梅澤 修氏「表面硬化部材の疲労損傷研究部会:活動概要について」、山陽特殊製鋼 橋本和弥氏「高面圧・すべり環境下における転がり疲れ過程に及ぼす潤滑油の影響」、横浜国立大学 高安秀都氏「転動接触疲労による境界潤滑膜形成と損傷組織」、神奈川県立産業技術総合研究所 髙木眞一氏「窒化処理鋼の疲労強度に及ぼす表面化合物層の影響について」、横浜国立大学 高橋宏治氏「窒化処理鋼の疲労強度に及ぼす表面欠陥の影響の評価」、神奈川県立産業技術総合研究所 中村紀夫氏 「低温ガス窒化により形成されるステンレス鋼の拡張オーステナイト相」の講演が行われた。
表面硬化部材の組織と力学特性フォーラムのもよう