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SEMICON Japan 2024

 

トライボコーティング技術研究会など、第11回岩木賞贈呈式、第21回シンポジウムを開催

 トライボコーティング技術研究会(大森 整会長、 https://www.sites.google.com/site/tribocoating/ )と理化学研究所は2月22日、埼玉県和光市の理化学研究所・鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第11回贈呈式」および「第21回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―コンフォーマル、高機能成膜・薄膜技術の最前線、マイクロ流体技術の医療応用―」を開催した。
第11回岩木賞受賞者と関係者第11回岩木賞受賞者と関係者

 岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故 岩木正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は、愛知工業大学・旭サナック・九州大学が共同で業績名「脱真空回転霧化式二流体スプレー法を用いた三次元スタック構造半導体デバイスへのコンフォーマル成膜技術」により、岩木賞初となる優秀賞・事業賞の同時受賞に輝いた。また、信州大学 榊 和彦氏が業績名「コールドスプレー法の基礎研究と適用事例の開発」で特別賞を、東京電子と岡山理科大学が共同で業績名「高機能成膜を実現させるアーク抑制型HiPIMS電源の開発」で奨励賞を受賞した。

 冒頭、挨拶に立った大森会長は「前回は平成30年、第10回岩木賞贈呈式、第20回シンポジウムとゼロが三つ並ぶ記念すべきイベントとなった。今回も岩木賞受賞記念講演、会員講演と非常にバラエティに富んだ内容となっているので、最後までご聴講いただくとともに、お集まりの皆様方で活発な情報交換を行っていただき、今後のビジネス展開に役立てていただきたい」と述べた後、岩木賞各賞の審査経過説明を行い贈呈式に移行した。
挨拶する大森会長挨拶する大森会長

 優秀賞・事業賞同時受賞の業績「脱真空回転霧化式二流体スプレー法を用いた三次元スタック構造半導体デバイスへのコンフォーマル成膜技術」は、間口数十マイクロメートルオーダのシリコン貫通電極穴(TSV)壁面に対して、スピンコート法と真空技術を組み合わせた従来手法(ギャップフィル)の、貫通孔壁面にフォトレジストを成膜できない、滴下したレジストの数%しか成膜されないといった課題を新開発の回転霧化式二流体スプレー装置で解決したもの。スプレーする液滴サイズや飛行速度を独立に制御でき最適なTSV成膜条件を出せる回転霧化式二流体スプレー成膜装置を開発したこと、また、半導体製造プロセスで嫌悪される金属コンタミネーションやパーティクルが発生しない世界初の小型樹脂製回転霧化式スプレーノズルを用いて、脱真空により孔壁面へのコンフォーマルな成膜を可能にするTSV成膜プロセス技術を開発したこと、さらに同装置によるTSV成膜データを基に半導体デバイスメーカーへ本装置を販売した実績を有し、実用化に成功していることなどが評価された。
左から土肥氏、小林氏、宮地氏、清家氏、藤井 進氏(NPS表彰顕彰部門長)、大森氏左から土肥氏、小林氏、宮地氏、清家氏、藤井 進氏(NPS表彰顕彰部門長)、大森氏

 受賞の挨拶に立った愛知工業大学 清家善之氏は「この技術は旭サナック様の多くの技術者や工場の方々、営業の方々の努力の賜物だと思っている。また、九州大学の土肥俊郎先生と黒河周平先生にはプロセスの開発についてご協力いただいてこのような賞をいただけたものと考えている。このような賞をいただき大変光栄に思う」と謝辞を述べた。
挨拶を述べる清家氏挨拶を述べる清家氏

 続いて、旭サナックの宮地計二氏は「弊社は塗装機械メーカーで、特殊な技術を事業化している。我々の事業部は持っている技術の応用拡大を使命としており、その中で液体霧化という技術を応用しようと今回のような研究開発を行ってきた。そうした意味において、今回は優秀賞とともに事業賞をいただけたことに大変感激をしている」と述べた。
挨拶を述べる宮地氏挨拶を述べる宮地氏

 同社の小林義典氏は「昨今、自動運転やIoT、AIといった非常に高度なセンサ・デバイス技術に対して、我々が開発した脱真空のスプレー技術を普及・発展させていくことが重要だと噛みしめている」と今後の展望を語った。
挨拶を述べる小林氏挨拶を述べる小林氏

 九州大学の土肥俊郎氏は「このスプレー技術はまだまだ応用できる分野があると思っている。今回、権威ある岩木賞をいただいたことを機に応用分野拡大に向けて努力していきたい」と述べた。
挨拶を述べる土肥氏挨拶を述べる土肥氏

 特別賞の業績「コールドスプレー法の基礎研究と適用事例の開発」は、榊氏が1999年からアジアおよび圏内においてコールドスプレーの研究開発を先駆けて行い、圧縮性流体力学に基づくコールドスプレーのノズルの設計指針を示し、実際に試作装置を用いて圏内発の金属皮膜を作成したことや、その後も継続的にコールドスプレーのノズル形状に関する基礎研究、成膜のメカニズムや皮膜特性に関する研究などを行い、国内外の学会で研究発表を行いながらセラミック基板への金属皮膜の成膜といったアプリケーションの開発も行い、常にコールドスプレー研究の第一線に立ち、長年にわたり当該技術の実用化に努めてきたことなどが評価されたもの。
左から藤井氏、榊氏、大森氏左から藤井氏、榊氏、大森氏

 受賞の挨拶に立った榊氏は「溶射の中でも粒子を溶かさずに成膜することができるコールドスプレーに興味本位で取り組んで20年になる。これまでいくつもの波があったが、ここにきてようやくカーデバイスの基盤技術に使えそうだ。このような栄誉ある賞をいただけたのは、ご協力いただいた先生方やサポートしてくれた学生の方々など多数の方々のお陰。感謝したい」と謝辞を述べた。
挨拶を述べる榊氏挨拶を述べる榊氏

 奨励賞の業績「高機能成膜を実現させるアーク抑制型HiPIMS電源の開発」は、高硬度・高平滑性・高密着強度の成膜を可能にするHiPIMS(大電力パルスマグネトロンスパッタリング)における、大電力ゆえのアーク異常放電の発生や、OFF 時間の長さゆえの成膜レートの低さ(生産効率の悪さ)といった問題点を、HF(High Frequency)パルスを採用したHiPIMS電源によって解決し高機能成膜を実現するもの。従来のHiPIMSパルス波形の中に①予備放電波形、②メイン放電波形、③HFパルスの三つの波形を組み合わせることで、HiPIMSのデメリットと言われてきた成膜レートの低さを改善しつつ、欠陥成膜の原因であるアーク異常放電の抑制を実現。これによって、密着性が問題視されるDLC膜を高密着に高いレートで成膜できるようになることで、DLCの各種産業での適用拡大に寄与できることなどが評価されたもの。
左から藤井氏、福江紘幸氏(岡山理科大学)、中谷達行氏(同)、黒岩氏、大森氏左から藤井氏、福江紘幸氏(岡山理科大学)、中谷達行氏(同)、黒岩氏、大森氏

 受賞の挨拶に立った東京電子の黒岩雅英氏は「私どもは10年前までは薄膜とはまったく縁のない電源屋だった。今回共同受賞した岡山理科大学 中谷達行先生と出会い、お客様の顔を見て何を求めているかを探っていかなければならないと学んだ。ともすると、電源屋は出力を出せば顧客の要求を満たせると考えがちだが、それでは顧客の要求を満たすことができないことをこの業界で教えていただいた。今後は、今回の受賞を励みとしてさらなる勉強を重ね業界の発展に寄与したいと思っている」と述べた。
挨拶を述べる黒岩氏挨拶を述べる黒岩氏

 贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として優秀賞・事業賞で愛知工業大学 清家善之氏、特別賞で榊 和彦氏、奨励賞で黒岩雅英氏がそれぞれ講演を行った後、以下の会員講演が行われた。

 会員講演1「PVD用薄膜材料およびEifeler社PVD装置最新動向」岩元哲志氏(エンハンストマテリアル)・・・同社が販売を行うCrターゲットにおいて、高純度の半導体マスク用の4N5グレード、液晶用ガラス基板サイズ(2880×3130mm)に対応可能な1枚物の4Nグレードなどについて紹介した。PVD薄膜材料では、各種コーティング装置に使用される薄膜材料の全サイズをラインナップしていること、セラミックス複合体を含め3元系や4元系といった材料への対応などについて解説、試作品と量産品を同一製法で製造するため品質の安定化が実現している点を強調した。また、グローバルで実績のあるEifeler-Vacotec社製のPVDコーティング装置の販売代理店を行っていることも紹介。同装置のラインナップや成膜した膜の特性などについて解説した。
講演を行う岩元氏講演を行う岩元氏

 会員講演2「塩素含有DLC膜の摩擦摩耗特性に関する研究」徳田祐樹氏(東京都立産業技術研究センター)・・・塩素系潤滑油の低摩擦化メカニズムに着目し、DLC膜に塩素を添加した塩素含有DLC膜の摩擦摩耗特性について調査した結果を解説。摩擦試験ではアルミニウム合金との試験結果で微量の塩素添加で低摩擦化を示したこと、試験後にマイクロスコープで観察するとDLC膜と相手材の摩耗痕上に液状物質が存在すること、液化したトライボフィルムが潤滑効果を付与した可能性があることなどについて言及した。
講演を行う徳田氏講演を行う徳田氏

 会員講演3「マイクロ流体チップを用いたがんマーカー物質の検出」細川和生氏(理化学研究所)・・・新しいがんマーカー物質として盛んに研究が進んでいるマイクロRNA(miRNA)の中で、同氏らが独自に開発したマイクロ流体を用いた簡便迅速なmiRNAの検出法の研究について解説。がん早期診断実現のために外部動力が不要な「自律駆動マイクロ流体チップ」とマイクロ流路内で蛍光シグナルを増幅させる「層流樹状増幅法」を組み合わせたmiRNAを紹介し、正確に特定のmiRNAを1時間で検出できることを示した。
講演を行う細川氏講演を行う細川氏
第21回シンポジウムのもよう第21回シンポジウムのもよう