トライボコーティング技術研究会は5月31日、埼玉県和光市の理化学研究所 和光本所で、「令和元年度 第1回トライボ研究会・総会」を開催した。
開催のようす
当日はまず、研究会が開催され、以下のとおり講演が行われた。
・「DLC膜の国際標準化動向と最新成膜技術」平塚 傑工 氏(ナノテック)…DLC膜の構造と分類、さらにはDLCの国際標準化の動向について解説。2016年3月15日に発行されたDLCの摩擦摩耗試験ISO規格(ISO 18535)について摩擦係数の変化に影響する湿度管理等の基準規定などを紹介したほか、日本製のDLC分類用簡易光学評価試験機(堀場製作所製エリプソメータ)を用いた光学的評価法の規格原案(新規再提案)について、分光エリプソメトリー測定・解析手順や、各種DLC膜の光学定数と硬さの相関性などから光学定数がDLC膜の分類・検査の指針として使うことが可能であることを示した。さらに現在進めている、振動式マイクロスクラッチ試験機(レスカ製)を用いた300nm以下のDLC膜の密着性試験の標準化作業など、標準化活動の母体となるDLC工業会の取組みを紹介した。また、30GPa以上の高硬度水素フリーDLC膜を660nm/minの高速で成膜できるナノテックの大電力マグネトロンパルススパッタリング(HiPIMS)技術について、燃料電池セパレータ用導電性・耐腐食性カーボン保護膜などへの適用事例を紹介した。
講演を行う平塚氏
・「DLC膜の密着性評価法」馬渕 豊 氏(宇都宮大学)…ボールオンディスク摩擦摩耗試験機にアコースティックエミッション(AE)センサーを加えることで、実機と相関のある簡易的なDLC膜の密着力試験を行うことができ、DLC膜の研究開発に有効なことから、同試験法のISO化を検討していくこと、また、規格化にあたってはデータの整合性が重要なことから、影響の大きい潤滑油、相手ボール材、試験条件の詳細を試験に織り込んでいく方向性を示した。一方、AEの周波数解析によるはく離要因の解析では、AEの振幅を時系列で整理することで膜の微小はく離の段階で検知できることや、異なる仕様のDLC膜を評価することで、はく離発生の周波数が350~600kHz、表面突起の脱落が8kHzおよび30kHzであることを確認。その他の要因についてはモデルサンプルの作りこみの改善、センサー感度の向上など解決する課題が多いが、上記ISO規格案の付加価値要素として研究を継続していくと述べた。
講演を行う馬渕氏
講演に続いて「令和元年度総会」が行われ、平成30年度活動報告・会計報告がなされ、令和元年度活動計画が発表された。役員改選では、会長に大森 整 氏(理化学研究所 主任研究員)、副会長に熊谷 泰 氏(ナノコート・ティーエス社長)と野村博郎 氏(理化学研究所 大森素形材工学研究室 嘱託)が再任された。
大森会長
熊谷副会長
野村副会長
また大森会長より、2020年2月28日に砥粒加工学会ATF(先進テクノフェア)との合同開催を予定している第22回シンポジウム「トライボコーティングの現状と将来」に関する説明と「第12回岩木賞」の募集がなされた。
総会終了後は、理化学研究所 光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チーム 中性子工学施設の見学会が行われ、陽子線ライナック小型中性子源RANSなどが披露された。