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第9回ものづくりワールド名古屋

 

理研 大森素形材工学研究室製作のフレネルレンズ搭載Mini-EUSO望遠鏡が打ち上げ、宇宙・地球科学の成果獲得へ

 理化学研究所(理研)開拓研究本部戎崎計算宇宙物理研究室(主宰者:戎崎 俊一 主任研究員)、大森素形材工学研究室(主宰者:大森 整 主任研究員)の共同研究グループが開発・製作に携わったMini-EUSO望遠鏡が8月22日(日本時間)、ロシアのソユーズロケットによって、バイコヌール宇宙基地(カザフスタン)より国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられた。

 Mini-EUSO望遠鏡は国際宇宙ステーションへ運ばれた後、ロシアの実験棟のズヴェズダモジュールの窓に取り付けられ、夜の地球の250km四方を近紫外線で毎秒40万フレームで撮影する。同望遠鏡は超高エネルギー宇宙線を観測する超広視野望遠鏡EUSOの開発の一環として位置づけられ、衛星軌道から宇宙線を観測する際のバックグラウンドとなる近紫外線夜光の全球分布を作成する。

 また、夜間に地球上で起こる様々な発光現象の全球分布も作成。発光現象の一つとして「スプライト」や「エルブス」「ブルージェット」と呼ばれる高度約100kmの高層大気中で起こる放電現象があるが、その発光メカニズムはまだよく分かっていない。そこで今回、Mini-EUSO望遠鏡による高速撮像で発光の発達の様子を明らかにすることを目指している。さらにプランクトンからの生物発光、流星の全球観測を実施。理論的に予想されているストレンジレットと呼ばれるクォーク物質はダークマター候補の一つだが、存在すればMini-EUSO望遠鏡で検出できる可能性がある。また、宇宙デブリの検出も目指しており、将来の宇宙デブリ除去のための基礎研究を行う。

 Mini-EUSO望遠鏡はイタリア、ロシアをはじめ、日本、フランス、ポーランドなど300人を超すEUSO国際共同研究グループにより各国の助成を受けて開発され、イタリア宇宙機関とロシア宇宙機関の国際共同ミッションとして進められている。直径25cmフレネルレンズ2枚からなる光学系は理研 戎崎計算宇宙物理研究室において設計され、大森素形材工学研究室において製作された。理研の共同研究グループは、計48×48画素の光電子増倍管を用いた焦点面検出器の製作と調整も一部担った。

 同望遠鏡の打ち上げにより、宇宙科学、地球科学の広い分野にわたる成果が得られることが期待されている。

 EUSO計画で用いる望遠鏡は口径2.5mの大きさだが、EUSO望遠鏡と同じ技術(フレネルレンズ、光センサーモジュール)を使って実現したのが口径25cmのMini-EUSO望遠鏡。

Mini-EUSO望遠鏡

 

 Mini-EUSO望遠鏡はEUSO計画で必要な近紫外線領域での背景夜光を観測し、低確率ながら1021eV以上の超高エネルギー宇宙線が飛来すればMini-EUSO望遠鏡で観測できる。技術的な面ではEUSO計画の構成要素を宇宙で動作させた実績を得ることができ、EUSO用大型望遠鏡の実現に向けて重要なステップを進めることになる。宇宙線以外にも近紫外線領域で発光する高層大気放電現象や流星、海洋生物発光の全球分布の観測が見込まれる。

Mini-EUSOの観測概念図

 

 Mini-EUSO望遠鏡作成に至った技術や成果は、今後予定されているEUSO-SPB2、POEMMA、K-EUSOといった大型計画の実現へと生かされていく予定だ。

 2022年にはNASAが、超高圧成層圏気球(Super Pressure Balloon)2号機(EUSO-SPB2)の打ち上げを予定している。EUSO-SPB2では約100日間の飛翔時間が見込まれることから、1018eVを超える超高エネルギー宇宙線が100例程度検出できると期待されている。また、将来の超高エネルギー宇宙ニュートリノの検出に向けて、水平方向に飛翔する宇宙線検出の技術実証を行う。EUSO-SPB2で得られた成果を、独立衛星2機による超高エネルギー宇宙線、ニュートリノ観測計画POEMMA(2030年ごろ打ち上げ予定)の設計に生かしていく。

 さらに、ロシアが中心になって国際共同研究として進めているK-EUSO計画は2023年ごろの打ち上げを目指して開発を進めている。直径4mの反射鏡を用いた望遠鏡が国際宇宙ステーションに取り付けられ、地球大気中での超高エネルギー宇宙線の軌跡を近紫外線で捉える。K-EUSOは宇宙から超高エネルギー宇宙線を本格的に観測する初めてのミッションとなる。国際宇宙ステーションが地球を周回することを利用して全天を観測でき、1020eV前後の超高エネルギー宇宙線を500例以上観測できると予想される。そして、今まで見つかっていなかった超高エネルギー宇宙線発生天体を突き止めることも期待されている。EUSO-SPB2、POEMMA、K-EUSOにおいても2017年に飛翔した超高圧成層圏気球1号機用レンズ、Mini-EUSO望遠鏡用レンズを製作した実績をもとに理研の共同研究グループがレンズを設計、製作する予定となっている。

 Mini-EUSO望遠鏡では宇宙デブリ検出の技術実証も目指しており、この結果を元に将来の宇宙デブリ除去プロジェクトのための宇宙デブリ検出用望遠鏡の設計、開発が一段と進むことが期待されている。