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第9回ものづくりワールド名古屋

 

パーカー熱処理工業など、第17回表面改質技術研究会を開催

 パーカー熱処理工業( https://pnk.co.jp/ )主催、日本パーカライジング( https://www.parker.co.jp/ )共催、パーカーS・N工業( https://www.parker-sn.co.jp/ )・日本カニゼン( http://www.kanigen.co.jp/ )協賛の「第17回表面改質技術研究会」が10月11日、東京都千代田区の日本工業倶楽部で開催、約200名が参加した。

 当日は、パーカー熱処理工業の渡邊正高社長が「米中貿易摩擦や消費増税など、日本経済は今後厳しくなることが予想される。こうした時にこそ我々も、お集まりの皆様とともにチャレンジをしていかなければならないと思っている。自動車業界では、現在100年に1度の大変革期と言われており、自動車メーカーでは自動車をつくる会社から総合モビリティカンパニーへ変革を遂げようとしている。こうした変革期に、我々熱処理・表面処理に携わる者は、どのように自動車の生産に関わり、我々自身がどう変わっていくのかと課題を抱えている。このような課題を抽出して、どのような方向に導くかを絶えず考えている。今回の研究会においても、皆様からのご指導やご提案をいただき、皆様とともに今後の方向性を見極めたいと思っている」と開会の挨拶を述べた後、各講演の概要紹介を行い、以下のとおり講演が行われた。

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挨拶する渡邊社長

 

①「Characteristic behavior ZrxCuySiz Nanocomposite and DLCcoating applications on the press Roller for Automobile Battery(ZrxCuySizナノコンポジットコーティングの特性と、2次電池用プレスローラーへのDLCコーティング適用)」Jun Youngha氏(J&L TECH)…エンジン部品では窒化クロム(CrN)コーティングやダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングなどが適用されているが、摩擦調整材であるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)が配合される低粘度エンジン油による潤滑下では、熱的不安定性や耐久性の低下といった問題を呈することがある。これに対し同社では、アルゴン(Ar)ガスおよび窒素(N2)ガス雰囲気下で、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)とケイ素(Si)の3元素合金ターゲットを用いた反応性スパッタリング法によって成膜することで上記の問題点を解決、摩擦特性と耐久性を改善した。このスパッタリングプロセスによって独自開発のZrxCuySizナノコンポジットコーティング(Zrナノコンポジットコーティング)を成膜したピストンリングは、リンク-ライナ摩擦試験と単気筒燃焼試験にかけられ、摩擦特性と耐久性が評価された。結果、荷重50~500N下でのリンク-ライナ摩擦試験では、Zrナノコンポジットコーティング(~膜厚13μm)がCrNコーティング(~膜厚24μm)と同等の摩擦・摩耗特性を実現しつつ、水素フリーDLC(ta-C)コーティングに比べ摩擦係数を45%低減した。また、単気筒燃焼試験ではCrNコーティングと比較して、Zrナノコンポジットコーティングは室温で60%摩耗を低減、100℃下では75%摩耗を低減した。さらに、需要の拡大するリチウムイオン電池の生産に使われるプレスローラーにDLCを適用した事例などを紹介した。

②「車と鋼の歴史-車との関りを通して鋼の歴史を振り返る-」高橋 学氏(日本製鉄)…各時代における鋼の歴史を自動車車体に注目して概観した。オイルショック以降から現在までの自動車を取り巻く環境としては、二酸化炭素(CO2)排出量削減など地球環境保全と、衝突安全性向上など安全性向上を実現するため、強くて軽い車体が求められ、高強度鋼板(ハイテン)などの適用が拡大してきていることを説明。高度成長期の鋼の歴史では生産性向上を目的にプレス成形性を改善する鋼中炭素量の低減の取組みなどを、産業の萌芽期では日本の工業界と産業間連携の萌芽の状況を紹介した。それ以前の鋼の歴史では、鐵と鋼の定義などについて説明した。長い歴史を持ち生活に不可欠なことから今後ますます需要拡大が見込まれる鉄鋼材料には、高温と低温で結晶構造が変わる、鐵と炭素の合金であるため加工と熱処理によって広範囲に強度と形状をコントロールできるという特徴があり、多くの可能性を有していることを強調した。

③「次世代表面処理技術への期待~サスティナブル社会の実現を目指して~」柳本 博氏(トヨタ自動車)…同社の電動車両普及に向けた取組みを紹介、電気自動車で対応が難しいガソリン車並みの航続距離を実現できバス・トラックなど商用車(大型車両)に適用できる燃料電池車(FCV)の利点について述べた後、2014年に販売を開始したFCV「MIRAI」に搭載されているFCスタックの構成について解説した。その主要構成要素であるFCセパレータでは水素・酸素ガス分配や冷却水分配、生成水排水という機能が求められ、それに伴いセパレータ用表面処理にはセル間の電気接続・セル内の集電(導電性=低い接触抵抗)と長期化学安定性(耐食性)が要求される。これに対しMIRAIセパレータでは基材にチタン(Ti)を適用して耐食性を確保しつつ、プラズマCVD法によるカーボン(C)系薄膜(膜厚50nm)の適用で金(Au)めっきと同等の低接触抵抗を確保している。プラズマ密度を高めることで従来手法に比べ成膜時間を1/500に短縮、生産性を大幅に向上させた。FCVの本格普及に向けては優れた耐食性と低接触抵抗を両立しつつ一層のコスト低減が必要なことから、表面処理膜への期待がさらに高まることに言及。接触抵抗低減では、被膜導電性の向上や表面粗さの最適化、被膜硬さの最適化が重要で、耐食性向上では水溶液系インヒビターの活用などが有用とした。さらに、廃液排出量を大幅に低減し工程短縮と高速成膜を実現する高導電性・高密着性の独自開発電気めっきプロセス「固相電析(SED)法」を提案した。

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研究会のもよう