神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC、 https://www.kanagawa-iri.jp/ )は10月30日~11月1日の三日間、神奈川県海老名市の同研究所で「KISTEC Innovation Hub 2019」を開催し、31日に「トライボロジー技術フォーラム」、1日には「表面硬化部材の組織と力学特性フォーラム」を横浜国立大学GMI(グリーンマテリアルイノベーション)研究拠点傘下の「表面硬化部材の疲労損傷研究部会」との共催として実施した。
このイベントは、平成29年4月に神奈川県産業技術センターと神奈川科学技術アカデミーの統合によりKISTECが立ち上がり開催されるもの。企業・大学・KISTECをはじめとする公設試験研究機関等で得られた研究・業務成果を紹介することで、研究者・技術者等の交流・技術連携を促し、中小企業の新製品開発、技術力の高度化・研究開発力の向上につなげていくための場として毎年開催している。
トライボロジー技術フォーラムでは、日本精工 佐藤 努氏が「耐剥がれ性に優れるDLC被膜の開発と転がり軸受への適用」と題して講演。転がり軸受が使用される高面圧下においても剥がれにくいDLC被膜を開発し、その被膜を転がり軸受に適用した事例について報告した。開発したDLC被膜は、被膜のヤング率を低くすることで母材への追従性を向上し、内部応力を低減することで被膜剥がれを抑制した。また、最表面にSiを添加することで被膜の硬さを維持しつつ耐剥がれ性の改善が可能であることを見出した。開発したDLC被膜を内輪に被覆した円筒ころ軸受を高PV(P:接触面圧、V:すべり速度)条件で試験したところ、従来の限界値の1.7倍のPV値でも損傷が発生しなかったという。同被膜は大規模空調設備用ターボ冷凍機の圧縮機支持軸受において適用されている。
また当日はこのほか、東京都立産業技術研究センター 徳田祐樹氏「塩素含有DLC膜の摩擦摩耗特性に関する研究」、KISTEC 吉田健太郎氏「DLC膜の摩擦特性に及ぼす植物油の不飽和度の影響」、名古屋大学 野老山貴行氏「表面増強ラマン分光法によるDLC膜の極表面構造変化測定」の講演が行われた。
表面硬化部材の組織と力学特性フォーラムでは、ヤマハ発動機 久保田剛氏が「コネクティングロッドの高性能化のための熱処理法」で講演。モーターサイクル用コネクティングロッドに対する要求特性として小型・軽量化があり、その対応策となる熱処理法として真空高濃度浸炭窒化とガス軟窒化の可能性と課題について述べた。クランクシャフトとの摺動部でニードルベアリングを用いる場合、ヘルツ応力に対する転動疲労強度を向上させることで小型化が可能になる。これまではガス高濃度浸炭窒化が用いられてきたが、実験で真空高濃度浸炭窒化を試みた結果、従来のガス浸炭に比べて約6倍、ガス高濃度浸炭窒化に比べて約1.7倍の寿命を得ることができたと報告した。また、SCM435焼入れ焼戻し材に対して最表面付近の化合物層の結晶構造をγ’としたガス窒化材と、εとしたガス軟窒化材について、SCM420の浸炭焼入れ焼戻し材と比較を行った結果、表面付近をγ’にした場合、SCM420浸炭焼入れ焼戻し材よりも疲労強度は107サイクル高くなるものの、微小亀裂の発生が直ちに最終破断に至ることが分かったと報告した。
また当日はこのほか、横浜国立大学 梅澤 修氏「表面硬化部材の疲労損傷研究部会の活動について」、KISTEC 髙木眞一氏「窒化鋼の疲労強度に及ぼす表面化合物の影響」、いすゞ自動車 山田明徳氏「窒化鋼のねじり疲労強度に及ぼす表面化合物層の影響」、青梅鋳造 野崎精彦氏「高強度球状黒鉛鋳鉄の低騒音歯車への適用に向けた窒化処理の影響」、横浜国立大学 梅澤 修氏「高面圧・すべり環境下における転がり疲労過程の検討」の講演が行われた。