京セラ( https://www.kyocera.co.jp/ )は、東京大学と共同開発した人工股関節の長寿命化が期待される表面処理技術「Aquala」(アクアラ)の開発と実用化について、科学技術と経済の会(JATES)が主催する「第8回技術経営・イノベーション大賞」において、「科学技術と経済の会 会長賞」を受賞したと発表した。大賞は、日本経済の活性化のために、世の中を変革する優れたイノベーション事例を表彰し、そのプロセスを産業人が学ぶことによって、日本におけるイノベーションの推進を図ろうとするもので、2012年度より毎年、表彰が行われている。
今回の受賞は、ポリマーの親水性改質の発見から医工連携による研究開発、産業界への技術移転へと進められたイノベーションの優れた事例であり、イノベーションによって関節骨盤の病に苦しむ患者の負担が大きく軽減されることにつながり、これからの超高齢社会への課題解決を果たしたとして高く評価されたことによるもの。
「Aquala」は、変形性股関節症などの疾患や骨折などによって機能を失った関節部分を置き換えるための人工股関節を構成する製品(寛骨臼ライナー)に用いる表面処理技術。本技術は、人体の細胞や組織との馴染みの良い生体親和性ポリマー(MPCポリマー)を使用し、関節軟骨と類似の表面構造にする同社独自のコーティング技術。Aqualaを用いることによって、これまで人工股関節置換手術の課題とされていた人工股関節のゆるみや周囲の過剰な免疫反応を抑制し、生体内における人工股関節の耐用年数の延伸が期待できる。本技術を採用した人工股関節は、2011年4月28日に厚生労働省より製造販売承認を取得し、これまでに国内で6万例を超える手術に使用されている。
同社は、2001年より東京大学と共同で、関節面からの摩耗粉の発生を抑制し、人工股関節のゆるみなどの合併症が起きにくい長寿命型の人工股関節の開発を開始した。人工股関節の関節面を生体親和性ポリマーでnm単位で表面処理することにより、生体関節軟骨表面の構造や機能を模倣するというバイオミメティック(生体模倣)技術を創出し、合併症の原因となる「摩耗粉の発生」と「摩耗粉に対する過剰な生体免疫反応」を同時に抑制することに成功した。歩行運動において、股関節は体重の数倍におよぶ負荷を受けるが、本技術を用いた人工股関節は15年分以上に相当する模擬歩行負荷試験において、摩耗粉の発生が従来の一般製品と比べて約99%低減されることが確認されている。また、継続研究では、生体の70年分以上に相当する長期間の試験後も安定して摩耗耐久性を維持するという結果も得られているという。