表面技術協会、第72回通常総会・協会賞など各賞授与式を開催
表面技術協会( https://www.sfj.or.jp/ )は2月26日、Web会議システムを利用したリモート方式により「第72回通常総会および各賞授与式」を開催した。
当日は第71期事業報告、会計報告が行われた後、第72期事業計画・収支予算について審議、満場一致で可決された。事業報告では、第141回講演大会は新型コロナウイルス感染拡大のため中止となったが講演要旨集を公表済みのために同要旨集に記載した範囲で成立したこと、第142回講演大会は新型コロナウイルス感染拡大のためWeb開催としたこと、昨年9月に名古屋大学 東山キャンパスで開催予定だったINTERFINISH2020をオンライン開催での準備を進めていることなどを報告した。事業計画では、3月の第143回講演大会をWeb開催とすることや、9月の第144回講演大会を姫路商工会議所で開催すること、ISO規格検討専門委員会においてISO/TC107からの提案事項の審議や省エネルギーに等に関する国際標準化委託事業を行うことなどを確認した。
役員改選では、前期に引き続いて会長に光田好孝氏(東京大学 名誉教授)、副会長に本間敬之氏(早稲田大学 先進理工学部 教授)、大塚邦顯氏(奥野製薬工業 常務取締役)が再任。今期より坂本幸弘氏(千葉工業大学 工学部 教授)、久保祐治氏(日本製鉄 執行役員 技術開発本部 先端技術研究所長)が副会長に選任された。
理事を代表して挨拶に立った光田会長は「まだまだコロナ禍が続く中で、本協会に限らず各団体がどのような形で協会・学会活動を続けていけばよいのかを模索しているところだ。しかし、本日のようにWebを使用した手法を用いて、今年は昨年よりも活動を活発化させていきたいと考えている。本協会70周年事業で言うと、もうすぐ72年が過ぎることになるが70周年の寄付については昨年をもって締め切らせていただいた。この形を70周年記念事業委員会に諮り一応の締めをしたい。それと同時にいただいた多額の寄付の使い道や今後のことを考えた体制づくりについて考えることを進めていきたい」と述べた。
当日の席上では、「2021年度 表面技術協会 各賞授与式」が行われ、各賞選考委員長が受賞者と業績、受賞理由を述べた。協会賞には、杉村博之氏(京都大学 大学院工学研究科 教授)が業績「光化学反応を用いた表面改質に関する研究」で受賞。杉村氏は、真空紫外光(VUV 光)と呼ばれる短波長紫外線による光化学反応を基盤とする材料表面改質に関して、独創的かつ先駆的な研究を展開してきた。光化学的原則と反応素過程を正しく解釈し、実用的な表面処理技術として洗練させることに成功している。主たる研究成果として、①VUV励起酸化反応によってプラスチック表面を化学活性化し、プラスチック部品を接着剤を使わずに低温で接合する表面活性化接合技術の開発とマイクロ流路部品製造への実用化、②酸化グラフェンの酸素含有官能基を直接励起し、選択的に酸素を除去する高速VUV還元反応の発見と固体潤滑膜・微細加工への応用を見出し酸化グラフェンの物性制御処理手法の発見、③有機金属錯体膜、有機無機複合体の室温無機化と高分子基板上への無機酸化膜形成への展開、④通常の紫外光や可視光に感光性のない有機分子材料をVUV光によって直接マイクロパターン化するVUVマイクロ加工技術の開発、が挙げられる。これらの研究成果は200報を越える学術論文として出版されている。以上のように、杉村氏は光化学反応を基盤とする表面改質・薄膜形成・微細加工に関する一連の研究によって、表面技術の発展に顕著な貢献をしている。よって同協会は、表彰規定第4条により2021年度協会賞の授与に相応しいと判定した。
また技術賞では、星野克弥氏(JFEスチール スチール研究所)ら5名が業績「プレス成形性に優れる自動車用高潤滑性溶融Znめっき鋼板(高潤滑性GI)の開発」で受賞。開発された技術は、亜鉛めっき鋼板自身が有する極薄の自然酸化物層による潤滑効果に着目し、この潤滑機構を発展させることで溶融亜鉛めっき鋼板(GI)表層に極薄皮膜を設けた高潤滑性GIを開発した。この皮膜は数十nm程度の極薄膜にもかかわらず皮膜構造を仔細に制御することで高い潤滑性を実現した。皮膜を極薄膜としたことで自動車の組立工程で重要となる溶接性を阻害せず、さらにめっき自体の主成分であるZnが主体となる皮膜組成であるが故に自動車の塗装前処理工程で重要視されるアルカリ脱脂性やリン酸亜鉛処理性も保持した。これによりGIでは従来不可能であった高度な潤滑性と溶接性の両立を実現し、GIへの潤滑皮膜の適用を可能とした。本技術は特許や論文、学会発表で積極的に公開するとともに大規模な製造実績と自動車車体への適用実績を積み上げており、今後のさらなる展開に期待ができることから技術賞としてふさわしい内容であると判断された。
同じく技術賞で佐藤羊治氏(トヨタ自動車 モノづくり技術開発部)ら6名が業績「高密度プラズマによる高性能・高生産性を両立したDLC成膜技術および装置の開発」で受賞。この技術はDLC膜の性能および成膜速度の限界となっていたプラズマ密度を放電原理まで遡って飛躍的に高めた蒸発源とそれをベースにした量産プロセスおよび装置を具現化したものである。1個処理のワークにベースの直流電圧とマイクロ波を直接導入する方式を開発し、従来比で約100倍のプラズマ密度の放電を得ることに成功し、開発したDLC膜の摩擦係数は従来の50%に低減され成膜速度は70倍以上に向上した。さらに、開発蒸発源と真空搬送ロボットを組み合わせた量産装置を開発し、月産数万個の量産レベルで不良率:1/5、膜厚さ分布:1/2を実証した。同技術は特許や学会発表などで積極的に公開するとともに汎用性の高い量産装置も同時に具現化し、部品の量産レベルに適用可能な生産能力に加え不良率およびバラツキの低減を実証しており工業的なインパクトは極めて大きい。このように、今後のさらなる応用展開が期待できることから技術賞としてふさわしい内容であると判断された。
受賞者、業績などの一覧は以下のとおり。
協会賞
・杉村博之氏(京都大学 大学院工学研究科 教授)
業績「光化学反応を用いた表面改質に関する研究」
功績賞
・益田秀樹氏(東京都立大学 名誉教授)
・大野 茂氏(元日本大学)
論文賞
・三宅正男氏、平田瑞樹氏、岡本弘晃氏、平藤哲司氏(京都大学 大学院エネルギー科学研究科)
題目「乾燥空気中でのジメチルスルホン浴を用いたアルミニウム電析」
(表面技術 第70巻 第10号 523~527頁)
技術賞
・星野克弥氏、平章一郎氏、山﨑雄司氏、谷本 亘氏、松田広志氏(JFEスチール)
業績「プレス成形性に優れる自動車用高潤滑性溶融Znめっき鋼板(高潤滑性GI)の開発」
・佐藤羊治氏、橘 和孝氏、佐藤貴康氏、中田博道氏(トヨタ自動車)、有屋田修氏(アリオス)、高坂健児氏(中外炉工業)
業績「高密度プラズマによる高性能・高生産性を両立したDLCの成膜技術および装置の開発」
進歩賞
・郡司貴雄氏(神奈川大学 工学部 助教)
業績「イオン液体からのアルミニウムの無電解めっきに関する研究」
(表面技術 第71巻 第8号 521~529頁ほか)
技術功労賞
・國澤伸市氏(東洋鋼鈑 下松事業所 生産技術部 めっき技術グループ)
・藤川 准氏(造幣局 研究所 研究開発課 作業長)
・木曽雅之氏(上村工業 中央研究所 副所長)
・荒川英二氏(JFEスチール スチール研究所 表面処理研究部 リーダー)
・坂口雅章氏(奥野製薬工業 総合技術研究所 総合技術研究部 第四研究室)
会員増強協力者
・兼松秀行氏(八戸工業高等専門学校 材料工学科 教授)
・松本 太氏(神奈川大学 工学部 教授)
・邑瀬邦明氏(京都大学 大学院工学研究科 教授)