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第9回ものづくりワールド名古屋

 

トライボコーティング技術研究会、令和3年度第2回研究会」を開催

 トライボコーティング技術研究会(会長:大森 整・理化学研究所 主任研究員)は10月5日、東京都板橋区の板橋区立グリーンホールで「令和3年度第2回研究会」を開催した。今回は「第8回 板橋オプトフォーラム」のセッションの一つとして企画され、実地およびオンラインによるハイブリッド開催となった。

 当日は板橋区長・坂本 健氏の開会挨拶に続いて、以下のとおり講演がなされた。

【基調講演】
・「新型コロナウイルス感染症と光科学」合田圭介氏(東京大学)…新型コロナウイルス(COVID-19)では、微小血管血栓症が患者の重症度や死亡率に及ぼす重要な要因の一つであることが明らかになっている。本研究では、COVID-19における微小血栓形成のプロセスを理解するために、COVID-19患者の血液細胞を高速光イメージングでプロファイリングすることで、循環する微小血栓情報を得た。本研究で用いたデータ駆動型解析手法は、①COVID-19患者からの採血(1mL)、②血液から微小血栓を分離するサンプル調整、③マイクロ流体技術とハイスループット光学顕微鏡を用いた微小血栓の撮像、④画像解析、から構成。微小血栓画像のビッグデータを解析した結果、COVID-19患者全体の約9割において、過剰な微小血栓が異常に存在することが分かった。さらに、微小血栓の濃度とCOVID-19患者の重症度、死亡率、呼吸状態、血管内皮機能障害度に強い関連性があるという結果が得られた。

【トライボセッション】
・「AEによる潤滑下のDLC密着力評価方法の開発-試験中の圧子形状と粗さ変化がDLC膜の密着力に及ぼす影響-」馬渕 豊氏(宇都宮大学)…ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の応用拡大には、課題となっているDLC膜の密着力を高い精度で評価・管理することが必須で、馬渕氏らは、DLC膜の密着力を潤滑下でアコースティックエミッション(AE)センサーを用いて評価する新しい試験法をISOの専門委員会TC123(すべり軸受)よりISO規格に提案している。本研究は、ボールを固定した治具に対し、DLC膜を成膜したディスクを保持する治具が回転し、3個のボールを通してステップ荷重を付与することで、はく離時に発生する弾性波を治具に固定したAEセンサーで検出するという試験手法を用いて、添加剤の異なる潤滑剤がDLC膜の密着性に及ぼす影響を、応力解析および潤滑状態(λ ratio)の2点に着目して検討した。その結果、極圧添加剤ZnDTPを含むエンジン油とMoDTCを含むエンジン油では、接着強度が向上した。また、応力σxは、曲率半径と摩擦係数を考慮して計算したが、接着強度のオーダーと一部異なっており、σxだけでは説明できない結果となった。さらに、曲率半径と表面粗さを考慮して潤滑条件λ ratioを算出した結果、潤滑条件が接着強度に大きく影響することが分かった。

・「自動車における電動化技術の動向とモノづくり」西村公男氏(日産自動車)…ePOWERにおけるフリクション低減技術として、シリンダーボアに鋳鉄製シリンダーライナーを挿入する代わりに、溶かした鉄をシリンダーボア内部に溶射し、溶射膜を鏡面仕上げにすることで、ピストンが動く時の抵抗を大幅に低減させる「ミラーボアコーティング」を紹介。ミラーボアコーティングと従来処理との表面性状の違いや、鏡面化によるフリクション低減効果、溶射のポロシティ(閉鎖型オイルポケットシステム)による動圧効果などについて説明した。また、電動化時代のギヤフリクション低減技術について紹介。①ハイポイドギヤの負荷かみ合い解析を用いて精度よくハイポイドのかみ合いフリクションを予測できること、②ハイポイドギヤの諸元は、ねじれ角とオフセットを小さくし、歯幅を増やすことで音振性能と強度を満足させられること、③歯面形状は歯型クラウニングを大きくし、ピッチラインから遠い滑り速度の大きい部分がかみ合わないようにしても、歯当たりが小さくなり面圧が上がるのでフリクションは下がらないこと、④フリクション低減と音振性能を満足させる方策としては、アンダーカットを考慮しアデンダムを変更し、ピッチラインの位置を変更することが有効である、と結論付けた。

【オンデマンド・マイクロセッション】
・「摩擦摩耗モデルと動力解析による工具切れ味の機械学習による自動判定について」春日博氏(理化学研究所 大森素形材工学研究室)…研削加工に用いられる砥石は、ドレッシング後の「切れる状態」から、加工が進むにつれて砥粒が摩耗・摩滅して「切れない状態」へと変化するため、再びドレッシングを行い、繰り返し使用される。このような研削加工中の砥粒の状態の把握では、加工音や被削材観察による定性的な評価に頼っているという実情がある。そこで本研究では、研削加工中の異なる砥粒状態の摩擦係数を取得することで砥粒の定量的評価を実現し、工具切れ味の機械学習による自動判定を目指した。砥石と材料の摩擦係数と摩擦回数という評価指標を定量化。機械学習による自動化によって目立て状態と目つぶれ状態という工具状態の分類に適用可能とした。さらに、訓練開始点(訓練データの差異)が工具状態分類の正解率に影響すると総括した。

・「デスクトップAI加工:サイバーカットについて(第三報)-切削加工の適用制御-」上原嘉宏氏(日本工業大学)…理化学研究所 大森素形材工学研究室では2006年、産業技術総合研究所(産総研)とともに属人的な加工技術・技能をテンプレート化して蓄える仕組みを研究開発する「技能継承プロジェクト」に取り組み、その仕組みの構築により、若手技術者が速やかに一定のレベルの加工ができるようになった。未知の工作物に対し過去の事例を参照し加工条件出しを効率化してトライアンドエラーを低減させるこの仕組みは「加工プロセスカルテ」と命名された。さらに、2016年からの産総研とのチャレンジ研究を通して加工技術・技能を抽出する「技能デジタイザー」の研究に取り組んだ。技能デジタイザーは超高齢化や労働力の減少などの「2050年問題」という深刻な社会情勢を前に、加工技術・技能の抽出と継承を人の手を極力借りずに行うコンセプトであり、技能デジタイザーの研究では、オペレータによる作業実況と加工状態のモニタリングによって加工条件を自動的に更新でき適正な加工を行えるAI加工技術「サイバーカットシステム」が開発され、このシステムをデスクトップ加工機「ピコマックス(百式)」に搭載した。スピンドル回転数の減少またはトルク電流値の増加が認められた場合は、送り速度を任意の割合で減少させ実送り速度を下げる。さらに回転数の減少またはトルク電流値の増加が認められた場合は同様に送り速度を減少させる(あらかじめ回転数、電流値、減少率の閾値を設定)。これを繰り返して最終的に、あらかじめ設定した送り速度の減少率の下限になった場合は、次の加工パスにおいて切り込み量を任意の量で減少させ、再度加工を行う。切り込み深さの減少についても同様に繰り返す。実験では、スピンドル回転数の変化に伴い、GセンサーやAEセンサーの数値の振れ幅が大きくなっていることが確認された。また、加工負荷も同様に大きくなり、最低のオーバーライド値が小さくなっていることが分かった。今後は送り設定速度の変化により実際に動作するオーバーライドの値について検証を行うとした。

 

開催のもよう mst トライボコーティング技術研究会
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