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SEMICON Japan 2024

 

花王、疎水化CNFが潤滑油を覆ったコーティング剤

 花王( https://www.kao.com/jp/ )テクノケミカル研究所は、セルロースナノファイバーを用いて、物がすべり落ちる表面を作り出すことで、窓の汚れや屋根の雪といった付着を抑制する水性のコーティング剤技術を開発した。

 日々の生活の中で、窓の汚れや鳥の糞など、さまざまな付着物がある。付着物は景観を損なうだけでなく、屋根の積雪で家屋が破損する、太陽光パネルに付着した鳥の糞で発電効率が低下する、といった悪影響を引き起こすこともある。また、これらを除去するには、多大な労力やコスト、エネルギーが必要となる。

 ウツボカズラという植物は昆虫をすべらせて捕食することで知られるが、その壺内面は潤滑液で覆われており、その内面を模倣した表面は「滑液表面(すべる性質を持つ表面)」と呼ばれている。同社は、この構造に着目し、塗布するだけで対象面を滑液表面にするコーティング剤の開発を行なった。同時に、環境や作業者の健康にも配慮し、有機溶媒を用いない設計を検討した。

ウツボカズラ
ウツボカズラ

 コーティング剤でウツボカズラのような滑液表面を再現するには、対象の表面が常に潤滑油で濡れている状態を作る必要がある。同社は、液体を保持する性質に優れたセルロースナノファイバー(CNF)と潤滑油を組み合わせると、CNFが潤滑油を保持し、長期間に渡って微量の潤滑油が放出され続ける表面を作れるのではないかと考えた。

 しかし、潤滑油は疎水性(水をはじく性質)なため、逆の性質を持つ親水性のCNFには馴染まない。そこで、同社がこれまで蓄積してきたCNFの表面を疎水化する技術を応用し、潤滑油となじみやすくしたCNF(疎水化CNF)で潤滑油を強固に保持する技術を開発した。

 さらに、環境や作業者の健康に配慮し、有機溶媒を用いない水性のコーティング剤を作ることを目指した。そのためには、疎水化CNFと潤滑油を水中に微分散(乳化)させる必要がある。今回、CNFが界面活性剤と同様の作用を持つことに着目し、強い力をかけることで、疎水化CNFが潤滑油を覆った毬のような状態で水中に乳化することができたという。

疎水化CNFが潤滑油を覆ったコーティング剤
疎水化CNFが潤滑油を覆ったコーティング剤

 また、コーティング剤を対象物の表面に塗布すると、毬のような構造体が積層した膜を形成していることを確認した。これにより、当初の狙い通りにCNFが潤滑油を保持し、長期間に渡ってすべる性質を維持できる表面が作れたと考えられる。今後は付着物によるトラブルの解消やさまざまな表面におけるメンテナンス低減に有効活用できるよう、用途に応じた提案を行ない、商品としても発売していく予定。

毬のような構造体が積層した膜
毬のような構造体が積層した膜