「第3回ブロードバンド加工技術セミナー」が11月15日に開催された。
九州大学大学院 黒河研究室と理化学研究所 大森素形材工学研究室ではこれまで、機械分野から光学応用、新素材やエネルギー分野にまで及ぶ広範な先進デバイス開発に寄与させるべく、ナノからピコプレシジョン領域を目指す新しい加工技術の共同研究を進めてきた。本研究の進展によって、ブロードな表面精度要求に対し、一連のプロセス精度をシームレスにつないで、狙いの素材に対して狙いの精度を最も効率よく得るブロードバンド加工技術の確立と展開が期待されている。
こうした背景から、研究の加速とともに産業界のものづくりニーズへの波及を図るべく、2018年11月19日に「第1回:ブロードバンド加工技術セミナー」が、2019年12月11日には「第2回ブロードバンド加工技術セミナー」が開催されるに至っており、さらに今回、上述のコンセプトに基づき、超精密切削、研削、研磨に関わる最新の話題を集め、本年11月15日に第3回目のブロードバンド加工技術セミナーが以下のとおり開催されたもの。
環境制御とプラズマ技術を融合した未来の精密研磨テクノロジー
当日はまず、九州大学名誉教授でDOI Laboratory代表取締役の土肥俊郎氏が、環境制御とプラズマ技術を融合した未来の精密研磨テクノロジーについて話題提供を行った。
環境制御型研磨加工はBell-Jarと呼ばれる加工環境を制御できる密閉型容器を応用したもので、内部の温度、気体や光反応などを制御することで、化合物半導体や難削材の高効率な研磨が実現できるものである。今回、さらにプラズマ技術を融合させることによって、画期的な研磨特性を実現できる未来の研磨テクノロジーについて総括的に解説がなされた。
ELID研削法とそれを応用した微細加工技術
イオンショット法とナノカーボン粒子を援用した切削法を応用した超加工テクノロジー
続いて、理化学研究所 大森素形材工学研究室 主任研究員の大森 整氏が、独自の発明技術であるELID研削法とそれを応用した微細加工技術、さらに独自のイオンショット法とナノカーボン粒子を援用した切削法を応用した超加工テクノロジーについて、総括的な話題提供を行った。
ELID研削法は、同氏が大学院修士課程在学中に発明して以来、産業界に広く普及しているが、近年、その標準化へ向かう動きや、新しい応用分野、デバイス開発に関するトピックスが提供された。
微細加工技術については、最新のデスクトップナノ加工システムとその応用事例についての解説がなされた。
最後にイオンショット法とナノカーボン援用切削による、望遠鏡用レンズ開発の事例と経過について、ホットな話題提供がなされた。特にナノカーボン援用技術に関しては、切削工具寿命を延ばし切削現象を良好に制御できるトライボファブリケーション技術の一つとして、今後の進展が期待されるものである。
電気防錆法によるグリーンマニュファクチャリング
最後に、岩手大学助教、理化学研究所客員研究員である西川尚宏氏が、SDGsに配慮した電気防錆法によるグリーンマニュファクチャリングについて解説した。
電気防錆法は同氏の発案に基づく独自手法であり、加工液として水道水などをそのまま使用しても工作物や工作機械に錆の発生などの影響をきたさない未来のグリーンテクノロジーの一つで、研削加工、切削加工を問わず適用ができる基本技術である。
また、本技術に関連して、加工液のクリーン循環システムの構築、工作物の防錆保管方法などの研究についても紹介がなされた。
本セミナーは、オンラインで開催されたが、講師と参加者間での質疑応答やディスカッション、当該技術分野に関する活発な情報交換が行われた。