エリコンバルザース(本社:リヒテンシュタイン)は工具メーカーのドイツ・C6 Composite Tooling社と共同で、航空宇宙産業の顧客であるオーストリア・FACC向けにCFRP用工具コーティング「BALDIA COMPOSITE DC」を開発、CVDダイヤモンドコーティングにより複合材部品の複雑な穴あけ工程における工具の使用寿命を3倍に延長し、工具コストを半分にする方法を示した。
航空機においては機体軽量化による燃費効率向上のため、CFRPの適用が拡大している。エアバスA350やボーイング787ドリームライナーなどの先進機種では繊維複合材料の割合を30%から50%へ増やしており、その数字は増加し続けている。そのためコスト効率の良いCFRP部品の加工は、現在も今後もFACCのような主要な航空宇宙サプライヤーにとって差し迫る課題となっている。
航空機の部品を組み立てるためには何十万もの穴あけが必要である。半自動の精密ドリル送り装置の使用や、機体や他の部品に柔軟に対応するCNCマシンや穴あけロボットを使用することで穴あけを効率化している。穴をあけるために、工具で厚さ11mmから25mmの材料をわずか10μmの公差で加工を行う。しかし、難削材であるCFRPを加工するには従来工具では工具寿命が短く、工具交換の手間やコストが嵩むなどの問題を抱えていた。
C6 Composite Tooling社はこのような工具への課題対応を専門としており、自動車、航空宇宙と鉄道をターゲットに軽量素材に適したソリューションを提供している。FACC向けとして、同社は空気抵抗を低減させ、燃費や排気ガス、騒音を最小化するために、ウィングレットと翼端の延長部へ穴あけ加工をする工具を含む、最適化された加工工程を開発した。
C6 Composite Tooling社は従来の穴あけ回数(使用寿命80穴)改善を目的として、コーティングパートナーであるエリコンバルザースの協力により工具性能の向上を図ることができたという。両社は、様々な工具基材、工具径、製造状態とプロセスパラメーターをテストし、ダイヤモンドコーティング「BALDIA COMPOSITE DC」に適合させた。複合材料加工用に特別に設計されたナノ結晶CVDコーティングは、非常に高い耐摩耗性を持ち、最適なプロセスの信頼性と最高品質の穴あけを可能にする。
両社で共同開発した工具は、寿命を3倍以上の250穴に延長し、工具コストを半分以下に削減した。「基材、前処理、コーティングと最適な製品構成を開発するためには、緊密なパートナーシップは必要不可欠だった。このコーティングなしでは費用対効果の高い穴あけプロセスを生み出すことはできなかった」とプロジェクトに関わったC6 Composite Tooling社のテクニカルセールスの責任者であるセバスチャン・ヘルカート氏とエリコンバルザースのダイヤモンドカスタマーサポートの責任者のゲルハルト・ハーゲドーン氏の2人は話している。また、「この工具とコーティングがあれば、半自動ドリル送り装置でもCNCマシンでも、あらゆるアプリケーションに使用できる。もちろん、穴あけ加工アプリケーションの高い費用対効果や、迅速な工具交換などの加工時間にも満足している。これは我々の主な目標の達成に役立っている」とFACCのオートメーション技術者であるアンドレアス・メイヤー氏は話している。
エリコングループでは、今回採用に至った「BALDIA COMPOSITE DC」をグローバルで展開しており、日本ではエリコンジャパン バルザース事業本部( https://www.oerlikon.com/balzers/jp/ja/ )が窓口となっている。