メインコンテンツに移動
SEMICON Japan 2024

 

『よくわかるトライボロジー』村木正芳 著

村木正芳著 よくわかるトライボロジー MTJP メカニカル・テック社 1966年に産業界での摩擦・摩耗・潤滑不良による経済損失を減らすべくギリシャ語の“tribos”(摩擦する)をもとに作られた用語「トライボロジー」が誕生してから、すでに半世紀を超えた。この間,摩擦・摩耗・潤滑に関わる現象を一体化して捉え適正に問題解決する実績を積み重ねることで、トライボロジーは今や産業界の基盤技術として位置づけられるようになっている。


 現在の地球規模での喫緊の課題は、地球温暖化対策と脱炭素社会の実現である。日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言」に向け産業界が温室効果ガスの排出量実質ゼロへの本格的な取組みを進める中で、潤滑性向上による摩擦損失低減や摩耗低減によって省エネルギー化・省資源化・長寿命化につなげるトライボロジーは、カーボンニュートラルのための課題解決の鍵を握る技術として、その活用に期待が高まってきている。摺動部を持つ製品ではエネルギー損失改善の積み上げが今まで以上に必要になるほか、省エネルギーに加え耐久性を高めるためにも、摺動材料と潤滑剤の選定やエネルギー損失の限界に挑む設計が重要になる.

 しかしトライボロジー活用への期待が高まる一方で、大学などでトライボロジーを学習する機会が少ないことや、学際領域の学問であるトライボロジーを学ぶには機械、化学、材料といった複数の学問分野の知識を持ち合わせる必要があることから、トライボロジーで頭を悩ませる技術者が少なくないという実情がある。

 本書は、30余年に及ぶ潤滑油業界でのトライボロジー研究開発、20年に及ぶ大学でのトライボロジー教育と、半世紀以上にわたりトライボロジーの発展に貢献してきた著者が、上述のトライボロジーに関わる技術者のニーズに応えるために、トライボロジー全般の基礎を容易に学べるように、また分野の偏りがないように、レベル合わせに注力して執筆したもの。

 本書は著者の既著である『図解トライボロジー』を基にしつつ、教育機関での教科書として使いやすいように構成を変更した。具体的には半期の授業に対応すべく、各章で1回の講義を想定して全15章としている。

 加えて、最近の研究成果やトライボ設計に使える式を適宜盛り込むなど、現在トライボロジーに関わる技術者に対しても興味ある内容にまとめている。全章にわたり著者の研究データが引用されているが、特に第15章 EHLトラクションでは、トライボ設計に必要な潤滑油の高圧物性の算出法や部分EHL解析技術が紹介されている。
A5判、232頁、定価3190円(本体2900円+税)。東京電機大学出版局(https://www.tdupress.jp/book/b593782.html) 発行。

 内容は以下のとおり。

第1章 トライボロジーとは(トライボロジーの歴史と意義、自動車のトライボロジー、トライボシステム、技術分野におけるトライボロジーの課題)

第2章 固体の表面(表面形状、表面層の構造と性質)

第3章 接触(弾性接触、塑性接触)

第4章 摩擦(摩擦の法則、摩擦の主要因―凝着摩擦、表面膜の効果、掘り起こしによる摩擦、転がり摩擦)

第5章 摩擦の問題と摩擦の利用(スティックスリップ現象、摩擦面温度、摩擦の利用―ベルト伝動)

第6章 境界潤滑と混合潤滑(化学結合と分子間力、境界潤滑膜、境界潤滑モデル、混合潤滑モデル、潤滑モードの遷移に伴う摩擦係数の変化)

第7章 摩耗(摩耗とは、摩耗の分類、凝着摩耗、腐食摩耗、アブレシブ摩耗、疲労摩耗、焼付き、Wearマップ)

第8章 トライボ試験(トライボ試験の種類、基礎的トライボ試験、転がり疲労試験、接触電気抵抗の測定、境界潤滑膜の厚さの測定、表面分析、AFMによる摩擦面の評価)

第9章 粘性(粘度の定義と単位、粘度−温度特性、粘度−圧力特性、ポリマー添加による粘度−温度特性の改善、粘度の測定法、粘性による軸受の摩擦抵抗、粘性の分子論的解釈、粘度と化学構造)

第10章 潤滑剤(潤滑油、グリース、固体潤滑剤、添加剤)

第11章 流体潤滑理論(流体の性質と流れに働く力、二次元レイノルズ方程式、三次元レイノルズ方程式)

第12章 ジャーナル軸受の潤滑理論(すべり軸受の種類、すべり軸受へのレイノルズ方程式の適用、ジャーナル軸受の潤滑理論、流体潤滑の限界)

第13章 有限幅ジャーナル軸受の特性解析(レイノルズ方程式の差分化、圧力分布の解法、偏心率・偏心角・最小油膜厚さ、プログラムの作成と実行結果)

第14章 弾性流体潤滑(弾性流体潤滑理論の概要、流体潤滑理論による線接触の解析、線接触に対するEHL理論、流体潤滑モードと膜厚計算式、点接触下のEHL膜厚、EHL理論の修正、油膜厚さの測定と理論からのずれ)

第15章 EHLトラクション(トラクションと機械要素、ニュートン粘性モデルによる解析、粘弾性モデルによる解析、弾塑性モデルによる解析、レオロジーモデルのまとめ、潤滑油の種類とトラクション、パラフィン系鉱油のトラクション、部分EHL下の潤滑解析)

参考文献

索引