日本トライボロジー学会(JAST)の機能性コーティングの最適設計技術研究会(主査:岐阜大学・上坂裕之氏)は9月5日、「第15期 第1回(通算第19回)会合(オンサイト会議)」を開催した。
同研究会は、窒化炭素(CNx)膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等の硬質炭素系被膜および二硫化モリブデン等の固体潤滑被膜を実用化する上で重要となるコーティングの最適設計技術の向上を目指し、幅広い分野の研究者・技術者が集い、研究会での話題提供と討論や、トライボロジー会議でのシンポジウムの開催などを行っている。
今回はDLC膜をはじめとする表面改質やナノ粒子による低摩擦化技術、接触部位における解析技術にフォーカス。上坂主査の開会挨拶に続いて、以下のとおり、2件の話題提供がなされた。
「潤滑油添加剤MoDTCとの反応性を高めたDLC膜、炭素系ナノ粒子による低摩擦化の展望」馬渕 豊氏(宇都宮大学)…摩擦調整剤MoDTCとの反応性を高めるDLC膜の研究では、遷移元素であるNi を蒸着したDLC膜が反応性向上に有効として着目。ta-C膜にNiを蒸着した膜ではta-C膜に比べ摩擦係数が半減したことが確認されたほか、Ni蒸着ta-C膜のオージェ分析結果からは、Ni の蒸着により表層にMoS2の生成とそれを支持するFe3O4/Niの2層構造が認められ、NiがMoS2の支持層であるFe3O4の生成を促進する可能性があるとした。また、ナノダイヤモンド、フラーレン、酸化グラフェンなどの炭素系ナノ粒子による低摩擦メカニズムの研究では、①炭素系同素体のナノ粒子は、分散剤であるグリセリンモノオレート(GMO)との共存下で摩擦係数が1/10にまで低下すること、②その内訳としてGMOの効果が約7~8割を占めること、③GMO添加量の低下に伴い二次粒子径が増大し摩擦係数の増大につながること、④摩擦メカニズム解析として吸着サイト数NEBCを定義して整理した結果、各ナノ粒子の摩擦係数との相関が認められたが粒子の構造を超えた統一的な整理には至らなかったと総括した。
「スパッタ薄膜を用いた固体表面接触部の測定について」川口尊久氏(宇都宮大学)…従来の真実接触部の検出方法では困難だったメゾスケールの大きさの真実接触部について、弾性接触を含めて詳細に検出できる方法として、固体表面に数nmの厚さでスパッタ薄膜を被覆し、その薄膜が接触によって相手表面に移着することを利用し真実接触部を検出する方法を紹介した。ここでは、滑らかなガラス平面試料に金(Au)のスパッタ薄膜を、表面に数十nmRaの微小な粗さを持つ鋼球に白金(Pt)のスパッタ薄膜を成膜し、負荷荷重を変えて二面を押し付ける実験を行い、ガラス平面試料側の薄膜が鋼球側に移着した接触部の様子を光学顕微鏡とSPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した事例を紹介。押し付け実験後の平面試料を光学顕微鏡で測定した結果からは、接触痕の全体像から、荷重の増加に伴い接触痕の接触した範囲の半径が大きくなっていくことが分かったほか、接触痕の中心部付近は荷重の増加に伴って微細に接触した個々の領域が外周部に比べてより大きくなっていることが、接触痕の外周部付近では個々の微細な接触領域が中心部に比べて小さく点在していることが分かった。また、SPMにより接触痕を観察した結果、個々の微細な接触領域が荷重の増加に伴って大きくなる様子や新たな接触領域の発生などの様子がより詳細に観察できた。
講演終了後は、川口研究室、馬渕研究室、宇都宮大学分析センターの見学会が、それぞれ実施された。