メインコンテンツに移動
SEMICON Japan 2024

 

トライボコーティング技術研究会、令和4年度第 2 回研究会を開催

 トライボコーティング技術研究会(会長:理化学研究所 大森 整 主任研究員)は10月5日、東京都板橋区の板橋区立文化会館で「令和4年度第2回研究会」をリアルおよびオンラインによるハイブリッド形式で開催した。今回は、「第50回:マイクロファブリケーション研究の最新動向」、「第10回インテリジェント/AIものづくりシンポジウム」との同時開催で、テーマは「レーザーによる表面改質、トライボコーティング評価技術、自由曲面オプティカルファブリケーション」。「第9回板橋オプトフォーラム(IOF)」との同時開催となる。

 当日は、大森氏による趣旨説明の後、以下のとおり講演がなされた。

2022年 第2回トライボコーティング技術研究会 開催のようす
開催のようす

 

第一部:特別セッション

・「微細加工関連の最新研究動向~ MIRAI会議にみるマイクロ・トライボファブリケーション事例~」大森 整氏(理化学研究所)…本年8月19日に三条市立大学で開催された国際会議「MIRAI会議 第15回シンポジウム(15th MIRAI Conference on Micro-Fabrication and Green Technology)」におけるマイクロ・トライボファブリケーション研究の概要を紹介した。埼玉工業大学・長谷亜蘭氏からはアコースティックエミッション(AE)を用いたトライボロジー現象の解明に関する話題が、オンワード技研からは高付加価値を生むDLCコーティングなどPVDコーティング技術の話題が、三条市立大学からはレーザ誘起湿式改質法による先端的表面機能の創成に関する話題が提供された。理化学研究所からはまた、電解インプロセスドレッシング(ELID)研削およびイオンショット加工を通した表面改質技術について紹介、CMPも併用することで骨粗鬆症の患者へのインプラント埋め込みにも有効とした。

・「新しいデンタルインプラントの創出―パルスレーザ加工によるジルコニアインプラントの表面改質―」水谷正義氏(東北大学大学院/理化学研究所 大森素形材工学研究室)…歯科インプラントへの応用を目的にレーザ改質したジルコニア表面の特性を評価、材料学的知見からはジルコニアへのレーザ改質は表面の変色・還元・低温劣化の促進をもたらし、また、レーザ改質後の変質は追加熱処理により改善できることが、生物学的知見からはレーザ改質による粗面化は細胞挙動を良好にするが、レーザ改質による変質は細胞の活性に良好な影響を与えない可能性があることが分かった。また、パウダー・ジェット・デポジッション(PJD)という粒子衝突手法による革新的歯科治療の事例として、ハイドロキシアパタイト(HA)の成膜による、う蝕(酸によって歯質が脱灰・欠損する口腔内疾患)の新しい治療法を提案した。

第二部:トライボセッション

・「実ワークのトライボコーティングの膜厚・膜質検査のご紹介」岡本宗大氏(大塚電子)…三次元形状体に成膜されたDLC膜などの膜厚(1nm~)の解析に加えて、光学定数(屈折率:n、消衰係数:k)といった膜由来の構造解析を、非接触・非破壊・顕微で迅速に計測できる顕微分光膜厚計「OPTMシリーズ」の技術と適用事例を紹介した。同じく非破壊計測であるエリプソメトリー法では最小スポット径が大きいため特定の部位の計測が難しいほか、数十秒~数分の計測時間を要するなどの課題があったのに対し、顕微分光膜厚計では高速オートフォーカス機能により、1ポイント1秒以下の高速計測を実現するほか、最小スポット径が3μmと小さいため微小領域で狙った部位を計測できる。最適化シミュレーションデータ生成の高速化やFFT Multi Pro(多層同時解析)などの新機能について紹介したほか、切削工具のDLC膜やペットボトルのDLC膜・シリカ膜の膜厚・膜質測定の事例を紹介した。

第三部: マイクロセッション

・「自由曲面光学部品および微細構造表面の高精度加工技術」閻 紀旺氏(慶應義塾大学)…スピンドル回転と工具運動を同期させるスローツールサーボ機構を用いた超精密旋削加工は非軸対称な自由曲面形状でも短時間・高精度に加工できる一方、複数の誤差要因によって理想形状と実際の加工形状の間に誤差が発生するため、形状誤差を計測し補正することが必要とされる。講演では、考えられるすべての誤差要因を包括的に分析し加工前に予測に基づき補正することで1回のみの加工でナノレベルの形状精度を実現できる補正技術について紹介した。また、サブマイクロオーダーの工具輪郭誤差が形状精度を低下させる課題に対し、白色干渉計を用いて工具輪郭を計測しフィードフォワード補正をかけることで、1回の加工で形状精度150nmの自由曲面旋削を可能にする機上計測・補正技術を紹介した。さらに、分割切削法による追従誤差低減や、その他の微細構造表面加工技術について提案した。

 当日は光学・精密機器関連の企業展示と大学研究室によるポスター発表が行われ、トライボコーティング関連では企業展示で大塚電子とナノコート・ティーエスが、ポスター発表で埼玉工業大学マイクロ・ナノ工学研究室(長谷研究室)、理化学研究所 大森素形材工学研究室が参加した。

 

2022年 第1回トライボコーティング技術研究会 大塚電子 企業展示
大塚電子の展示のようす

 

2022年 第2回トライボコーティング技術研究会 ナノコート・ティーエスの展示のようす
ナノコート・ティーエスの展示のようす

 

2022年 第2回トライボコーティング技術研究会 理化学研究所大森素形材工学研究室の展示のようす
理化学研究所大森素形材工学研究室の展示のようす

 

 講演終了後は「第5回IOF Award企業展示・大学研究室ポスター発表奨励賞表彰式」が開催され、企業展示3件とポスター発表2件が表彰され、トライボコーティング関連では、埼玉工業大学 長谷研究室が選ばれた。光学部品表面におけるナノメートルオーダーの精度・品位を維持するためには、加工表面で起こるトライボロジー現象の認識と制御が必須となるが、同研究室では材料の変形・破壊時に発生する弾性応力波を計測するAEセンシングの活用と摩擦界面で起こるトライボロジー現象の可視化など多角的な研究に取り組んでおり、今回はそれらの研究を通じて光学部品の生産技術への寄与を目指していることなどが評価された。

 

2022年 第2回トライボコーティング技術研究会 第5回IOF Award 大学研究室ポスター発表奨励賞表彰式のようす:右から二番目が埼玉工業大学・長谷亜蘭氏
第5回IOF Award 大学研究室ポスター発表奨励賞表彰式のようす
:右から二番目が埼玉工業大学・長谷亜蘭氏