高機能トライボ表面プロセス部会 第19回例会と第20回機能性コーティングの最適設計技術研究会が合同開催
表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:岐阜大学 上坂裕之氏)「第19回例会」と日本トライボロジー学会 機能性コーティングの最適設計技術研究会(主査:岐阜大学・上坂裕之氏)「第15期 第1回(通算第20回)会合」が11月16日、名古屋市千種区の名古屋大学 ベンチャービジネスラボラトリー ベンチャーホールでの対面参加およびオンライン参加からなるハイブリッド形式により、合同開催された。
高機能トライボ部会は、自動車の低燃費化・高性能化などへの高機能トライボ表面の寄与が増してきていることを背景に設立され、自動車関連・コーティング関連企業や、大学・研究機関などが参加しての分野横断的な議論を通じ、低摩擦/高摩擦、耐摩耗性などに優れた高機能トライボ表面のためのプロセス革新に向けた検討を行う場として機能している。
また、機能性コーティングの最適設計技術研究会は、窒化炭素(CNx)膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等の硬質炭素系被膜および二硫化モリブデン等の固体潤滑被膜を実用化する上で重要となるコーティングの最適設計技術の向上を目指し、幅広い分野の研究者・技術者が集い、研究会での話題提供と討論や、トライボロジー会議でのシンポジウムの開催などを行っている。
機能性コーティングの最適設計のための研究開発を支える先進表面分析技術に関して,特にラマン分光分析の話題にフォーカス。上坂代表幹事/主査の開会挨拶に続いて、以下のとおり、4件の話題提供がなされた。
・「DLCをちょっと深く考えてみる」鷹林 将氏(有明工業高等専門学校)…DLCの化学構造とその変化はラマンスペクトルでよく表されると考えられているが、ラマンスペクトルは融合形状を示しピーク分離解析は困難であるため、DLCのラマン分光解析は多種多様となると解説した上で、以下のとおりまとめた。①DLCのラマンスペクトルは五つの活性バンド(N、D、G-、G+、D′)から構成されている、②各バンドはLorentz関数(G-バンドはBWF関数)を共通のGauss関数で畳み込んだ関数で表現できる、③光電子制御タウンゼント放電(PATD)中で成膜したDLCは、五つのバンドを明確に分離できる、④各バンドの比面積と位置シフト量からDLCの化学構造を類推できる。最終的にラマンスペクトル解析によってDLCの化学構造は、π共役の発展度合いがDLCの特性を決定するとした「sp2クラスターモデル」で説明できると結論、DLCはπ共役成長が緩やかで誘電性が特徴的な炭素材料である、と総括した。
・「各種分析手法によるトライボフィルムの分析事例紹介」沼田俊充氏(日産アーク)…各種分析手法を用いたトライボフィルム調査と摩擦特性との相関について解説。低分子添加剤の定性・含有量を見るLC-MS、金属錯体添加剤の変質を見るXAFS、元素の定量化を行うICPといったオイル(添加剤)の分析手法や、最表面の元素分布を見るAES、最表面の化学状態を見るXPS、被膜の厚さ・断面構造を見る断面TEMといったトライボフィルムの分析手法を組み合わせることで、オイルの劣化やトライボフィルムの化学状態・構造を解析し、摩擦特性への影響を考慮できる、とまとめた。また、NOxガスバブリングにより市販エンジンオイルを劣化させ、摩擦特性、添加剤含有量の変化、摺動面におけるMoS2の分布についてラマン分光法による分析を行った結果、AFMとラマン分光法の複合解析によって突起部のMoS2の被覆率を算出したほか、潤滑油中MoDTCの減少が摺動面接触部におけるMoS2の被覆率の低下を引き起こし摩擦係数の上昇につながることを明らかにした。添加剤分析、トライボフィルム分析の結果を総合的に解析することでオイルの劣化が摩擦特性へ与える影響を考察できる、と総括した。
・「熱可塑性高分子における顕微ラマン散乱分光法による結晶化度測定」山口 誠氏(秋田大学、オンライン講演)…今後市場が急拡大すると予測されている、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたCFRPとマトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を使用したCFRTPという炭素繊維複合高分子材料について解説した後、熱可塑性高分子における、機械的特性に影響する結晶化度の評価法として、1μm領域という局所領域の評価が可能な各種のラマン散乱分光法について紹介した。CFRTPのマトリックス樹脂の熱可塑性高分子としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の低波数領域のラマンスペクトルを見ることで、結晶化度評価や結晶化度の局所空間分布評価を行った結果、炭素繊維との相互作用や局所加熱部周辺の結晶化度、レーザ加工における熱影響、局所ひずみなどを明らかにした。
・「表面増強ラマン分光法を用いた水素含有DLC膜の極表面測定~MoDTC分解中間物質による摩耗促進機構の解明~」野老山貴行氏(名古屋大学)…DLC膜表面の表面増強ラマン分光法(SERS)を用いた測定を簡便に行うための手法として、金ナノ粒子塗布または金スパッタ法を比較。増強効果を得るために最適な波長の選択やラマンデータの検出深さについて明らかにした。金スパッタ法に比べ金ナノ粒子塗布法はラマンシグナルの検出深さに優位性があり、通常ラマン測定法に比べ金ナノ粒子塗布法を用いたSERS測定では最大強度が増加したほか、SERS測定における波長の影響を明らかにした結果、特に633nm波長の場合にIDピーク強度が高く摩擦に伴う結晶構造の変化を検出する際に分かりやすい結果が得られるものと推測した。そのほか、MoDTC由来物質をそれぞれ純物質として添加したポリアルファオレフィン(PAO)油中における摩擦試験を行い、DLC膜の摩耗形態の分類(アブレシブ摩耗、水素脱離摩耗、炭素脱離摩耗)を行った。講演後は、野老山氏の所属する生産プロセス工学 梅原研究室を訪問、上述の研究を支える試験・分析評価機器の一部を見学した。