自動車技術会は4月26日に第73回自動車技術会賞の受賞者を決定した。自動車技術会賞は、1951年に自動車工学および自動車技術の向上発展を奨励することを目的として設けられ、自動車技術における多大な貢献・功績に対し贈呈している。今回、表面改質関連では、論文賞に平山勇人氏(日産自動車)など「ステンレス溶射ボアに対応した厚膜DLCピストンリングの開発」、技術開発賞に谷川達也氏(トヨタ車体)「100%塗着霧化塗装技術」が受賞した。受賞理由は以下のとおり。
「ステンレス溶射ボアに対応した厚膜DLCピストンリングの開発」平山勇人氏・柴田大輔氏・内海貴人氏・野間 俊氏(日産自動車)、篠原章郎氏(リケン)…カーボンニュートラル実現に向けたCO2削減のためエンジン燃費改善は最重要課題である。排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation、EGR)率の向上による排気凝縮水の増加により、ボア腐食環境が厳しくなっている。これらの背景から、ステンレス溶射ボアを開発したが、窒化Cr膜を採用したピストンリングとの摺動における凝着摩耗が課題であった。窒化Cr膜を使わない厚膜DLCはアブレシブ摩耗が課題であるが、脱落したドロップレット形状に倣って弾性変形することにより、アブレシブ摩耗を抑制するメカニズムを明らかにした。ステンレス溶射ボアと厚膜DLCピストンリングの組み合わせでEGR率20%を成立し、燃費4%の向上を実現した。本開発での知見は、EGR率30%以上の実現、腐食環境が厳しいバイオ燃料を活用したフレックス燃料車へも適用可能な成果であり、高く評価された。
「100%塗着霧化塗装技術」立川達也氏・田中敦史氏・佐藤洋平氏(トヨタ自動車)、野田祥吾氏・赤荻隆斗氏(大気社)…自動車塗装で使用されている霧化塗装機は、ベルカップと呼ばれるノズルを高速回転させ、塗料をベルカップ円周上のエッジから液糸状にし、シェービングエアーと呼ばれるエアー機で霧化状にして吹付けしている。この塗装方法は、エアーによる影響で被塗物からの塗料の跳ね返りが生じるため、塗料の塗着率は60~70%程度であり、塗着しなかった塗料を回収・処理する大掛かりな設備が必要である。本技術は、塗料飛散の原因となるエアーや遠心力をまったく使用せず、塗料の微粒化を電気の反発力のみで行い、静電引力で被塗物へ付着させるため、100%の塗着率を可能にした。塗料の飛散がないため、塗料回収・処理する大掛かりな設備を小型化でき、CO2の削減が可能となる。本技術は、CO2排出量が多い自動車塗装工場の姿を一新することが可能な技術開発として高く評価された。