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高機能トライボ表面プロセス部会、第5回合同研究会を開催、ドライコーティング研究会は今回で解散

 表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:岐阜大学 上坂裕之氏)とドライコーティング研究会(事務局:近畿高エネルギー加工技術研究所(AMPI))は6月30日、兵庫県姫路市の姫路・西はりま地場産業センター(じばさんびる)で第5回目となる合同研究会を開催した。前者は第21回例会となる。後者は第63回研究会となるが、今回で解散することが発表された。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 開催のようす mst 表面改質
開催のようす

 高機能トライボ表面プロセス部会は、自動車の低燃費化・高性能化などへの高機能トライボ表面の寄与が増してきていることを背景に、自動車関連・コーティング関連企業や、大学・研究機関などが参加しての分野横断的な議論を通じ、低摩擦/高摩擦、耐摩耗性などに優れた高機能トライボ表面のためのプロセス革新に向けた検討を行う場として、2014年に設立された。

 また、AMPIでは所有する各種のレーザ装置やプラズマ装置を利用した加工技術や表面改質技術の研究開発、中小企業の技術支援、という二つのミッションを通じニーズとシーズを常に探っているが、ドライコーティング研究会はこうした観点からAMPIを母体にして、ドライコーティングなどの技術について研究会を開催することで、産官学問わず幅広い有識者の参加により、専門家の講演や保有技術の紹介など、活発な情報交換や勉強会の場を提供している。

 今回の合同研究会では、高機能トライボ表面プロセス部会の上坂氏の開会挨拶に続いて、以下のとおり講演が行われた。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 挨拶する上坂氏 mst 表面改質
挨拶する上坂氏

「 プラズマCVDを用いたダイヤモンド結晶成長技術開発の最前線 」山田英明氏(産業技術総合研究所関西センター)…近年、人工宝飾用ダイヤモンド市場においてCVD製の存在感が増してきている。産業利用を見据えたさらなる市場拡大には、CVDによる種結晶の大型化と高品質化を図る技術が必須。これに対し産総研では、ミリ単位でクラックフリー厚膜化を実現、モザイク基板ならばインチサイズまで拡大できている。CVD成長中に品質を改善する手法の開発も立ち上がりつつある。通常の半導体プロセスで利用される手法が網羅的に試されているわけでもなく、結晶成長メカニズムが完全に理解できているわけでもない。合成装置・加工技術開発に加え、真のデバイス優位性・特性を示すことが重要で、今後特性と結晶性との相関とともに優位性を着実に示していきたい、と総括した。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 講演する山田氏 mst 表面改質
講演する山田氏

「AIP-iXによる成膜技術と皮膜特性」竹井良将氏(神戸製鋼所)…AIP(Arc Ion Plating)で形成した皮膜は緻密で密着力が高く硬質皮膜形成に適している。切削工具用途として代表的な皮膜である立方晶AlCrN皮膜は、一般的にAl含有率が高いほど機械的特性(硬さ/弾性率)や耐酸化性が向上する一方で、金属元素のうちAl含有率が70at%以上では皮膜の結晶構造が立方晶から六方晶へと変化してそれら性能が低下してしまうという課題があった。この課題に対し、コア技術であるアーク蒸発源とエッチングシステムを刷新することで、皮膜の金属元素のうちAl含有率70at%以上でも立方晶を維持し表面粗度も良好(ドロップレット低減)な硬質AlCrN皮膜の形成を可能とした新型PVDコーティング装置「AIP-iX」を紹介した。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 講演する竹井氏 mst 表面改質
講演する竹井氏

「GCIB(Gas Cluster Ion Beam)による高密度・低残留応力DLC膜の形成 」西山昭雄氏(野村鍍金)…ガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いた水素フリーダイヤモンドライクカーボン(DLC)を作製(GCIB-DLC)。GCIBの低エネルギーかつ高密度エネルギー照射効果を利用することにより、ta-Cと同程度の2.9g/cm3以上の高密度と1GPa程度という膜の低残留応力(ta-Cの半分以下で、はく離しにくい)のDLCが得られ、膜の脆弱性改善・密着強度の向上によって長寿命化を達成している。耐久試験結果では、はく離や膜破壊が生じにくいこと、摺動特性に優れ、チタンやアルミなどの比較的軟質な材料に対しても傷をつけにくいなど、異常摩耗を最小にできることなどが分かった。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 講演する西山氏 mst 表面改質
講演する西山氏

「ホットチューブを用いたCVDによるダイヤモンド膜の合成」田中一平氏(兵庫県立大学)…三次元形状に成膜が可能、装置構造が簡単、厚膜化が可能という熱フィラメントCVDの、低成膜速度、温度分布、高基板温度、フィラメントの調整といった課題解決に向けて、効率的な加熱・分解、吹付効果、基板温度の低温化といった効果が想定されるホットチューブCVD法を紹介。ホットチューブCVDによるダイヤモンド合成において、チューブ(フィラメント)温度1500~1700℃で成膜速度が最大15.7μm/hのダイヤモンド膜が得られた。また、チューブ温度のさらなる高温化で高速成膜が期待できることから、ホットチューブCVDが新しいダイヤモンド成膜法として確立できるよう引き続き努めていく、と総括した。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 講演する田中氏 mst 表面改質
講演する田中氏

 閉会の挨拶に立ったドライコーティング研究会の殖栗成夫氏(AMPI)は「大変遺憾ながら会の運営が難しく、今回第63回をもってドライコーティング研究会を解散する」と述べ、同研究会は2002年度以来20余年の歴史に幕を閉じた。

高機能トライボ表面プロセス部会 ドライコーティング研究会 挨拶する殖栗氏 mst 表面改質
挨拶する殖栗氏

 また、高機能トライボ表面プロセス部会の上坂氏より、自身がセンター長を務める、プラズマを用いた新たな産業創出と現有技術を含めた県内企業など産業界へ展開するために2022年度に開設された、岐阜大学 プラズマ応用研究センターの概要が紹介された。“共同研究等により研究成果の社会実装および社会人教育を通じて、地域産業界の発展に貢献する”という同大学の地域連携に関する理念のもと設立された“ワンストップ・プラズマトライセンター”を掲げるプラズマ応用研究センターが保有する、MVP(Microwave sheath-Voltage combination Plasma)プロセス装置、マグネトロンスパッタリング装置(CVD複合化)、大気圧プラズマ装置、EBEP処理装置、HiPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)成膜装置など豊富な設備を紹介しつつ、各種保有設備を利用しての産学共同による研究を呼び掛けた。