表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:岐阜大学 上坂裕之氏)は12月7日、名古屋市天白区の名城大学で「第22回例会」を開催した。
高機能トライボ表面プロセス部会は、自動車の低燃費化・高性能化などへの高機能トライボ表面の寄与が増してきていることを背景に、自動車関連・コーティング関連企業や、大学・研究機関などが参加しての分野横断的な議論を通じ、低摩擦/高摩擦、耐摩耗性などに優れた高機能トライボ表面のためのプロセス革新に向けた検討を行う場として、2014年に設立された。
今回は上坂会長の開会の挨拶に続いて、以下のとおり講演が行われた。
・「反応性プラズマによる透明導電膜の正イオン蒸着技術および負イオン照射」北見尚久氏(住友重機械工業)…プラズマ成膜における反応性プラズマ蒸着(Reactive Plasma Deposition、RPD)の特長(成膜フラックスの高イオン化率や化学結合に適した成膜粒子エネルギーの制御が可能など)やRPDで得られるITO膜とGZO膜の特長について述べた。また、成膜粒子解析技術として基板への飛来粒子定量分析(中性粒子と正イオン)、RPDによる薄膜成長の機序解析(ITO膜の移動度と成膜レートのエネルギー依存性、GZO膜の成長促進因子と点欠陥制御)、酸化物成膜といったRPDの産業展開、酸素負イオン照射技術(Reactive Nion)の特長と酸化物への酸素負イオン照射効果について紹介した。
・「HiPIMSによるDLC硬質化の最先端」太田貴之氏(名城大学)…HiPIMSによるDLC成膜の方向性として高硬度化とドロップレットレス化(低摩擦係数)を掲げ、そのアプローチとしてパルス波形(大別してシングルパルスとダブルパルス)と希ガスを用いた手法を紹介した。シングルパルスHiPIMSによるDLC成膜(イオン(炭素、アルゴン)の挙動と硬度)やダブルパルスHiPIMSによるDLC成膜(パルス間隔の効果)について報告。パルス条件の調整によって成膜速度と硬度の向上が両立できると総括した。さらに、シングルパルスHiPIMSにおける希ガス(アルゴン、ネオン、キセノン)の効果について紹介した。イオンフラックスが少ないキセノンにおいて高硬度のDLC膜が得られた理由として、高質量キセノンのボンバード効果が高硬度化に寄与する可能性を示唆した。
・「地熱発電システムにおける低付着カーボンコーティングの開発」中島悠也氏(富士電機、Zoom講演)…地熱発電における出力低下要因となるシリカスケールの付着抑制に向け、化学的に析出付着するシリカに対してDLCによる低付着化を行った結果、シリカの析出付着モードに対して低付着なDLC化学構造を明確化、低sp2結合量、高水素含有量でシリカ付着量が低減した。また、DLCにおけるシリカ低付着モデルを解明、sp2減、水素含有向上によるシリカ付着力低減効果を明確化した。さらに、蒸気系統(タービン翼)から、熱水系統(管内)への展開を担い、DLC管内成膜プロセスを構築、蒸気/熱水系統ともにシリカの付着を劇的に抑制できることを確認。DLCは地熱発電で問題となっていたシリカスケールに対して抜本的かつ新しい解決手段で、地熱発電の事業性向上に寄与できると総括した。
続いて、名城大学 太田研究室の見学会が実施された後、閉会した。