表面技術協会、第75回通常総会・協会賞など各賞授与式を開催ー新会長に平藤氏
表面技術協会( https://www.sfj.or.jp/ )は2月29日、東京都新宿区の工学院大学で「第75回通常総会および各賞授与式」を開催した。
総会で議長を務めた松永守央会長は、冒頭「協会の一番の懸念事項は会員数の漸減していることだ。皆様のご協力のもと少なくとも減少は防ぎたい。ただ、協会の財務体質は一時期の非常に厳しい状態から持ち直している。これまで同様、皆様のご尽力をお願いしたい」と述べた。
当日は第74期事業報告、会計報告が行われた後、第75期事業計画・収支予算について審議、満場一致で可決された。事業報告では、第147回講演大会(2023年3月7日~8日)は千葉工業大学津田沼キャンパスで新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮した形式で開催したこと、第148回講演大会(2023年9月4日~5日)は山形大学米沢キャンパスで4年ぶりに懇親会と付設展示会を実施した形式で開催したこと、同協会が開催したセミナーの合計参加者が295名であったことなどを報告した。事業計画では、第149回講演大会を工学院大学八王子キャンパスで、第150回講演大会を北見工業大学で開催すること、ISO/TC107からの提案事項の審議、電波遮断金属薄膜応用部品-密着力測定に関する国際標準化調査、同協会の若手交流会開催、女性の協会活動への参加促進を図ることなどを確認した。
任期満了に伴う役員改選では、今期より会長に平藤哲司氏(京都大学 大学院エネルギー科学研究科 教授)、副会長に蒲生西谷美香氏(東洋大学 理工学部 教授)、辻 克之氏(太洋工作所 代表取締役社長)が新たに選任された。近藤英一氏(山梨大学 大学院総合研究部 教授)と鈴木一徳氏(スズキハイテック 代表取締役社長)は前期に引き続いて副会長を務める。
理事を代表して挨拶に立った平藤新会長は「松永会長の後を引き継いで非常に身の引き締まる思いだ。皆様方のご指導ご鞭撻をお願いしたい」と述べた。
当日の席上では、「2024年度 表面技術協会 各賞授与式」が行われ、中野博昭氏(九州大学 大学院工学研究院 教授)が業績「電析法による機能性薄膜の作製およびその制御因子に関する研究」で協会賞を受賞した。中野氏は、高耐食性表面処理鋼板製造のための電析Znの結晶形態制御技術およびZn系複合電析に関し独創的および先駆的研究を展開し、優れた業績を挙げている。有機被覆処理を施した機能性電気Znめっき鋼鈑の外観は、Znの結晶形態に強く依存するため、その結晶形態を制御することが必須である。電析Znの結晶形態に及ぼす素地鋼鈑の表面性状、基本電解因子、浴中の微量不純物、有機添加剤などの因子の影響をZnの結晶配向性、多結晶素地鋼鈑とZnのエピタキシーおよびZnの電析過電圧の観点から系統的に検討し、優れた外観を有するZnめっき鋼鈑の製造技術を確立することに成功した。
次世代防錆鋼鈑の基礎研究として、Zn電析時の陰極界面のpH上昇を利用してV、Zr、Al、Mg等の活性金属イオンを加水分解させながらナノサイズの超微粒子としてZn電析膜中に共析させる電析技術を開発した。本プロセスは電解液に不溶性の固形分散粒子を添加しないため、nmレベルの超微細粒子をZnと共析させることが可能であり、新たな電析膜特性が期待できるとともに、従来の複合電析の製造上の問題点も解決できる画期的なものである。
さらに、アルカリジンケート浴からのZn-Ni合金電析挙動に及ぼす有機添加剤の影響、Zn-鉄族金属複合電析膜の干渉による色彩の発現、誘導型Ni-W合金電析膜の微細構造と硬度に及ぼす熱処理の影響、低熱膨張型Fe-Niインバー電析合金の組成制御法、巨大ひずみ加工により結晶粒を微細化したAl合金の耐孔食性についても明らかにしている。
以上のように中野氏は、学術的な知見を基に精力的に研究を行い、電析法による機能性薄膜およびその制御因子に関して多くの業績を挙げ、表面技術の進歩、発展に顕著な貢献をした。
また論文賞では大澤伸夫氏(UACJ)ら5名が「電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔の表面偏析」で受賞。この論文は、鉛の表面偏析サイトが熱間圧延プロセスのロールコーティング由来の表面酸化層(酸化を伴う表面微細組織)であることを低加速高分解能FE-SEM、TEMおよび種々の表面分析手段を駆使して表面の平滑部、突起部などの特長を明らかにしている。
進歩賞では、田中一平氏(兵庫県立大学 大学院工学研究科)が業績「熱・プラズマを用いた炭素系硬質薄膜の新規成膜法の開拓」で受賞。田中氏はCVD法を基盤とした熱・プラズマを用いた新たなダイヤモンドや窒化炭素の成膜手法の構築に取り組んできた。特にダイヤモンド合成では、自身が開発したホットチューブ型熱フィラメント化学気相成長法により、比較的低い基盤温度537℃で0.7μm/h、743℃で13.5μm/hの合成速度を達成している。
同じく進歩賞で布村順司氏(UACJ マーケティング・技術本部 R&Dセンター)は業績「アルミニウムアノード酸化皮膜の構造制御による白色化技術の開発」で受賞。布村氏は、皮膜表層で光を乱反射させる凹凸構造を形成させる新技術を見出し、アルミニウムのアノード酸化皮膜の白色化を達成した。特殊な電解液や手法を用いる従来技術に対し、本技術は硫酸ベースにより一般的な電解液と簡便な手法とを用いて高い白い色度を達成した点が独創性に富む。
受賞者、業績などの一覧は以下のとおり。
協会賞
・中野博昭氏(九州大学 大学院工学研究院 教授)
業績「電析法による機能性薄膜の作製およびその制御因子に関する研究」
功績賞
・小岩一郎氏(関東学院大学 理工学部 教授)
・小林道雄氏(ヒキフネ 執行役員 技術部長)
論文賞
・大澤伸夫氏・富野麻衣・林 知宏氏・上田 薫氏(UACJ)、本居徹也氏(UACJ製箔)
「電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔の表面偏析」
(表面技術 第73巻 第10号 504~511ページ)
技術賞
推薦なし
進歩賞
・田中一平氏(兵庫県立大学 大学院工学研究科)
業績「熱・プラズマを用いた炭素系硬質薄膜の新規成膜法の開拓」
・布村順司氏(UACJ マーケティング・技術本部 R&Dセンター)
業績「アルミニウムアノード酸化皮膜の構造制御による白色化技術の開発」
技術功労賞
・野嶋晃子氏(神戸製鋼所 技術開発本部 開発業務部 試作実験室)
・水師弘之氏(日本製鉄 技術開発本部 尼崎研究支援室)
・村中幸夫氏(JFEスチール スチール研究所 表面処理研究部)
会員増強協力者
・鷹野一朗氏(工学院大学 工学部)
・野田和彦氏(芝浦工業大学 理工学部)
・邑瀬邦明氏(京都大学 大学院工学研究科)