物質・材料研究機構 高分子材料ユニット 有機材料グループの中西 尚志主幹研究者らの研究チームは、室温で白色に発光する液体の材料を開発した。
電力消費全体の約20%を占める照明装置については、温室効果ガス排出量低減のため革新的な材料・技術の向上が望まれている。中でも白色に光る有機材料は、白熱電球や蛍光灯に代わる次世代照明の光源材料として期待が高い。しかし、これまで開発されてきた有機材料は、主に溶液中に分散した状態では白色の発光性を示すが、その溶液を基板に塗布し溶媒を蒸発させると分子同士が凝集してしまうなどの理由で、本来の白色発光性能を十分に発揮できない問題点があった。また、加工プロセスの観点からは、高輝度な白色発光を簡便な方法で調製できる有機材料であることが望まれていた。
中西氏ら研究チームは、蛍光を示す分子の周りに枝分かれした柔軟性の高いアルキル鎖を結合することで、分子の凝集がなく、融点が約-45℃、不揮発性、青色蛍光性の液状物質を開発した。この物質は、揮発性の有機溶媒を必要とせず室温で粘度が潤滑油と同程度の約1.0 Pa·sの液体であり、絶対蛍光量子収率が約50%の青色発光を示す。さらにこの液体に固体粉末状の発光性色素を少量混ぜ込むことで、白色に発光するペースト状の材料とすることができる。白色発光する文字の印字や大面積塗布、UV-LED表面へコーティングを施した白色発光ライトなど、塗布しても高輝度の白色で発光する材料を作り出すことに成功した。
本研究では、青色発光する不揮発性の液体内に少量の固体色素を混ぜ込むだけという、非常に簡単な操作のみで良質に白色発光する材料の開発に至った。この液体材料は、様々な形状の基材表面に塗布可能であり、照明装置などの製造工程を大幅に簡略化できることが期待される。また、高精度に発光色を調整することができ、フルカラー発光を示す液体も容易に調整できることから、次世代のプリンタブルエレクトロニクスに向けた新たな発光材料となることが期待できる。
(a)OPV常温液体に、緑色(Alq3)および橙色(ルブレン)発光の固体色素を混ぜ込むことにより白色発光ペースト材料を調合。 (b)ボールペンで印字した白色発光(365 nmの紫外光照射)。 (c)5 x 5 cm2の白色発光する広面積塗布(365 nmの紫外光照射)。 (d)375 nm UV-LEDの発光写真。白色発光ペーストのコーティングなし(左)、有り(右)。