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日本トライボロジー学会、合同研究会を名古屋で開催

 日本トライボロジー学会(JAST)の機能性コーティングの最適設計技術研究会(主査:岐阜大学・上坂裕之氏)と固体潤滑研究会(主査:日本科学大学・平田 敦氏)は4月18日に、名古屋市天白区の名城大学 天白キャンパス 新校友会館で、合同研究会を開催した。

固体潤滑研究会など合同研究会 開催のようす mst 表面改質
開催のようす

 

 当日は両研究会から開会挨拶がなされた後、以下のとおり、固体潤滑研究会から2件、続いて、機能性コーティングの最適設計技術研究会から2件の講演が、それぞれなされた。

話題提供1「特異なCore-Rim微細構造を有する超高温用耐熱工具材料およびその工具の開発」村上 敬氏(産業技術総合研究所)…粒径1μm程度かそれ以下のTiC0.5N0.5、W、Re混合粉末を加圧焼結するとCore(芯)-Rim(縁)微細構造を持ち、高温強度や靭性に優れるTi(C,N)-(Ti,W)(C,N)-W系サーメットが得られる。鋼板の摩擦撹拌点接合(FSSW)では接合温度が1000℃以上になるため従来工具材料での長寿命は難しかったが、開発したサーメットを用いた工具は、低炭素鋼板のFSSWで従来工具よりも長寿命を示した。同サーメットを用いた切削工具ではまた、100~200m/minの低速切削が強いられていたスーパーステンレス鋼について、800m/minでの高速ドライ切削で従来工具よりも長寿命を示した。インコネル718合金の恒温鍛造に必要な温度は約1000℃以上で従来工具では対応しにくいが、BN離型剤を塗った同サーメット製金型を用いると1000~1100℃でのインコネル718の真空恒温鍛造が可能となった。

固体潤滑研究会など合同研究会 講演する村上氏 mst 表面改質
講演する村上氏

 

話題提供2「スズ基薄膜の自己潤滑性」宇佐美初彦氏(名城大学)…スズ(Sn)基薄膜の実験的検証によって、Snの成膜により摩擦係数が低減・安定化し耐摩耗性が大幅に向上すること、Snの融点以上で熱処理を施すことで摩擦係数の低減・安定化に寄与することが分かった。また、ショットによる成膜ではSnは素地層に選択的に付着するため被膜は不均質で、これが摩擦に伴う凝着部の成長を抑制し、摩擦摩耗の低減に寄与している可能性が示された。偏析黒鉛が微細なねずみ鋳鉄ではより有効な手段となる可能性が高い。また、機械的に成膜した不均質構造の軟質金属薄膜の摩擦特性を評価したところ、青銅上のハイブリッドコーティング、セグメント構造薄膜はSn-Zn単層膜に比べ初期なじみ性に優れ、摩擦係数も低減。Sn-Zn基ハイブリッドコーティングが最も摩擦係数が低く摩耗も少ない結果となった。また、不均質膜では単層膜に比べ機械的性質にばらつきがあり、最表面の機械的性質の差異が微細な凹凸を形成し油膜を保持、低摩擦に寄与した可能性が示唆された。さらに、SnとZnがまばらに分散していることで凝着成長が抑制され、摺動を阻害しなかったために摩擦係数が低減したと考察した。

固体潤滑研究会など合同研究会 講演する宇佐美氏 mst 表面改質
講演する宇佐美氏

 

話題提供3「Chemical Mechanical Polishing(CMP)の原理とその見える化が切り拓くイノベーション」畝田道雄氏(岐阜大学)…先端半導体を牽引する超精密研磨CMPプロセスの重要な副資材であるスラリーとパッドの要件について解説した後、CMPプロセスの見える化手法を用いた高機能副資材開発の取り組みについて紹介した。独自開発の研磨パッド表面性状定量評価手法「接触画像解析法」(マイクロスコープにより接触画像を取得、4種類の評価パラメータから評価)を用いて、研磨パッド表面性状が研磨レートに及ぼす影響について実験、連続バッチ研磨およびコンディショニング後の同一箇所による接触画像とパラメータの変化をモニタリングし、研磨レートが高まるパッド(とウェーハ)の最適接触条件を見いだした。また、ハイスピードカメラによりスラリー速度をモニタリングした結果、基板に対する砥粒の動きを最大化し研磨レートを上げるために、スラリーは砥粒が研磨パッドにしっかりと追従すること、研磨パッドは砥粒をしっかりと保持すること、との設計指針が示された。また、低い加工能率が課題の高効率パワーデバイスSiC基板を対象に、オゾンガスナノバブル援用の次世代CMP装置を開発、汎用スラリーを用いてSiC専用スラリーよりも高能率の加工を実現した。SiC基板表面のナノインデンテーション試験およびXPS分析の結果から、オゾンガスナノバブルによって基板表面に母材より低硬度の反応生成物が生成、それにより研磨(除去)が促進されたと推察した。 

固体潤滑研究会など合同研究会 講演する畝田氏 mst 表面改質
講演する畝田氏

 

話題提供4「表面プラズモン共鳴顕微鏡を用いた接触面観察」前川 覚氏(名古屋工業大学)…表面プラズモン共鳴を利用した手法は、高い界面選択性と感度(表面近傍のみの誘電率変化を感度よく計測することが可能)を利用して、潤滑膜の膜厚や密度の空間分布をin-situに可視化できる。接触面からの反射光強度の変化を捉え潤滑油密度の変化量を捉えることで、油膜圧力も測れることから、ここでは流体潤滑場のEHL油膜圧力分布の計測事例を紹介した。また、粗面の摺動による脂肪酸吸着膜のその場計測の事例を紹介、真実接触部の抽出と摩擦係数の同時計測が可能とした。さらに時間応答性がμsレベルと良好なため高時間分解能計測が可能で、摺動面の表面形状変化(表面テクスチャあり/なし)に対する圧力応答測定ができ、混合潤滑状態の圧力・油膜厚さの同時計測ができることを報告した。

固体潤滑研究会など合同研究会 開催のようす mst 表面改質
講演する前川氏