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高機能トライボ表面プロセス部会、第26回例会を開催

 表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会は5月9日、岐阜市の岐阜大学 OKB岐阜大学プラザ(TOIC棟)で、第26回例会を開催した。今回は、CVD研究会および岐阜大学 工学部附属プラズマ応用研究センターとの共催となった。

高機能トライボ表面プロセス部会 第26回例会 開催のようす mst 表面改質
開催のようす

 

 当日は、CVD研究会会長の京都大学 河 元明氏による開会挨拶の後、以下のとおり講演がなされた。

「スーパーコンピュータを活用したダイヤモンドライクカーボンによる超低摩擦・超低摩耗実現のための計算科学シミュレーション 」久保百司氏(東北大学)…自動車において摺動部品界面の急激な摩擦係数の変動は、人命を脅かす事故につながる可能性がある。そこで、安定した低摩擦特性を実現できるダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の最適設計を図るべく、原子レベルでの量子化学計算に基づくシミュレーションを実施、荷重の増加に伴うトライボ化学反応の解明を試み、なじみや焼付きといった泥臭い科学を量子科学計算で実現できることを示した。さらに同大学の保有するスーパーコンピュータを活用した反応分子動力学(MD)の超大規模計算により、摩擦現象に加えて摩耗現象の解明も可能と総括した。

高機能トライボ表面プロセス部会 第26回例会 講演する久保氏 mst 表面改質
講演する久保氏

 

「高活性原料を利用した原子層堆積法による薄膜形成技術の検討・開発」清水秀治氏(大陽日酸)…原子層堆積法(ALD)におけるプリカーサの吸着や、吸着種と反応膜の反応をモデル化することは、反応機構を考える上で重要で、プリカーサや反応剤の開発にあたっては、化学現象・物理現象を理解して進める必要がある。近年、半導体デバイスの微細化・高集積化およびそのための使用材料の拡大に伴い、反応性の高いプリカーサや反応剤が求められている。同社では特に、吸着種の反応が進みやすい高反応性ガスとして過酸化水素やヒドラジンに着目、これらの高反応性ガスを用いることで、反応温度の低温化だけでなく、薄膜に取り込まれる不純物の低減などの効果も期待できるとした。

高機能トライボ表面プロセス部会 第26回例会 講演する清水氏 mst 表面改質
講演する清水氏

 

「サムコのプラズマ技術によるALD装置・プロセス開発~未来を拓く薄膜技術~」古谷直大氏(サムコ)…同社のALD装置の特徴と、代表的な手法である高アスペクトのサンプルへの成膜が可能なサーマルALDと80℃の低温成膜が可能なプラズマ援用ALD(PEALD)の特徴について説明した後、サーマルALDによってアスペクト比40以上のトレンチにカバレージ性良くアルミナを成膜した事例や、PEALDによってアルミナを成膜し面内均一性と膜厚制御性を実現した事例などを紹介。ALDはナノレベルの膜厚制御性やピンホールフリーでコンフォーマルな成膜が可能なため、電子デバイスのゲート絶縁膜や半導体・有機ELのパッシベーション膜などに応用できるほか、光学関連にも適用できるとした。

高機能トライボ表面プロセス部会 第26回例会 講演する古谷氏 mst 表面改質
講演する古谷氏

 

「被削材との凝着現象に着目した工具用CVD被膜開発」奥出正樹氏(三菱マテリアル)…切削加工時の凝着摩耗を低減するために工具用CVD被膜と被削材との親和性に着目。合金鋼に含まれるFeと従来材料系(Ti系化合物、Al系化合物)の親和性に着目すると、ぬれ性の大きい材料では異常摩耗が進行し、静的な高温接触角測定でも低い値を示した。Feとのぬれ性が悪いZr化合物では高温接触角の値が大きい傾向であった。被膜厚さとFeに対する非親和性を両立したTiZrCN被膜を作製し、工具用CVD被膜として極めて耐摩耗性に優れるMT-TiCN系に比べ、1.5倍の耐摩耗性を示す結果が得られた。被削材の金属成分とセラミックス被膜間の親和性に着目することで、さまざまな被削材に対して凝着摩耗抑制材料開発の指針が得られるだろうと総括した。

高機能トライボ表面プロセス部会 第26回例会 講演する奥出氏 mst 表面改質
講演する奥出氏

 

 最後に高機能トライボ表面プロセス部会 代表幹事の岐阜大学 上坂裕之氏による閉会挨拶で、例会は終了した。