ナノテクノロジーと走査型プローブ顕微鏡(SPM)に特化した「ナノ科学シンポジウム(Nano Scientific Symposium Japan 2025 : NSSJ2025)」が10月24日、東京都文京区の東京大学 浅野キャンパス 武田ホールで開催され、約80人が参加した。主催はナノ科学シンポジウム実行委員会(実行委員長:名古屋大学名誉教授・高井 治氏)で、協賛は日刊工業新聞社とメカニカル・テック社、アルテア技研、日本顕微鏡学会。

ナノ科学シンポジウムは、2020年から走査プローブ顕微鏡(SPM)ユーザーシンポジウムとして開催してきたが、本年からSPMの幅広い応用と技術に焦点を当てつつ、複合的に表面解析手法を用いた材料科学、半導体およびライフサイエンス分野の最先端の研究情報を共有・交換するシンポジウムへと拡大。MEMS技術、表面分析・解析技術、表面技術など多様な分野の第一線で活躍している登壇者による講演やポスターセッションを通じて、材料・表面技術とナノテクノロジーとの共創を明らかにするとともに、ナノテクノロジー支援の取り組みを発信する。
2020年から開催され6回目となるNSSJ2025では、以下の登壇者による講演のほか、ポスター発表が行われた。
「傾斜探針型測長AFMによるナノ構造の寸法・形状計測」木津良祐氏(産業技術総合研究所)…講演では、本登壇者がナノ構造の寸法・形状を正確に計測するための技術として開発してきた、レーザー干渉計を組み込んだ原子間力顕微鏡(AFM)や、それによるナノスケール標準試料の校正技術、さらには傾斜探針機構を有した測長AFMについて紹介した。
「オペランド電位計測によるバンド構造の可視化:III-V族化合物半導体デバイスへの応用」石田暢之氏(物質・材料研究機構)…本登壇者は、超高真空下で動作するケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を用いた電位計測により、デバイス動作中のバンドプロファイルの変化を直接可視化することに成功した。本講演では、この手法を用いたIII-V族化合物半導体デバイスの評価事例を紹介した。
「マルチビームを適用した複数プローブで視る・操るナノスケールの界面構造」伊藤恵利氏(メニコン)…本講演では、コンタクトレンズのナノスケールの界面構造について、X線・中性子線・電子線・レーザー光といった量子ビームを相補的に活用し、その実態を「視る」、次にその知見を生かし「操る」ことによって、製品設計を目指す取り組みを紹介した。
「ダイヤモンドヘテロエピタキシャル成長における微細表面観察」鈴木真理子氏(Orbray)…同社ではサファイア基板上に独自のステップフロー成長技術を用いて、直径φ2インチを超えるヘテロエピタキシャル(100)ダイヤモンド基板の作製に成功している。本講演では、(111)ヘテロエピタキシャルダイヤモンド成長におけるサファイア基盤のオフ方向やオフ確度の影響について調べた結果を報告した。
「ダイヤモンドと窒化ホウ素単結晶の高圧合成と機能開発」谷口 尚氏(物質・材料研究機構)…本講演では、ダイヤモンドと窒化ホウ素の高純度単結晶の高圧合成と、不純物制御による機能発現についての近年の取り組みを紹介した。
「表面機能化によるナノ粒子触媒・電池カーボン電極・二次元結晶の開発と評価」齋藤永宏氏(名古屋大学)…ナノ粒子触媒、炭素系電池電極、二次元結晶は、次世代エネルギーデバイスや環境適合機能システムの鍵となる材料として注目されている。本講演では、表面機能化戦略を用いたこれらの材料の開発と評価に関する最近の進展について発表した。
「原子間力顕微鏡を使って液中で「観る」には」関 禎子氏(東京都立大学)…本登壇者は約30年前にコンタクトモードによる液中AFM観察を開始、以来、試料の固定方法について試行錯誤を重ねてきた。本講演では、各種の吸着メカニズムを活用した液中での試料固定方法について、角膜内皮細胞など実際の測定例をまじえて紹介した。
「半導体デバイス用シリコンウェーハの表面制御」仙田剛士氏(グローバルウェーハズ・ジャパン)…半導体デバイス用シリコン(Si)ウェーハにおいては、半導体キャリア移動度の観点からその原子レベルでの表面形状制御が重要で、移動度はまたSi表面が有する結晶方位にも依存する。本講演では、熱処理や洗浄などのプロセス条件と、結晶方位、傾斜角度などの組み合わせによる、Siウェーハ表面の制御方法について紹介した。
「イメージングエリプソメトリーによる薄膜の観察とその光学特性評価」岡野 俊氏(Park Systems)…本講演では、一般的なエリプソメトリーと違い、面での測定が可能でスポットサイズに依存しない1μm程度の分解能を有するイメージング分光エリプソメトリー(ISE)の原理や構成と、ISEの特長を生かしたCVDグラフェンの観察(膜厚マップ、膜厚断面)など、いくつかのアプリケーションを紹介した。

休憩時間には、人工知能(AI)搭載によりセットアップからスキャンまで一連の流れを自動制御できるAFM「Park FX40」を用いた、測定デモンストレーションが行われた。

当日はまた、12件のポスター発表が実施され、選考委員により最優秀賞1件、優秀賞2件が以下のとおり選考された。
◆最優秀賞
・「Reduction of Sulfation in Lead-Acid Batteries Using Ultrafine Bubbles」尾木佑輝氏(東京都立科学技術高等学校)
◆優秀賞
・「Investigation to Improve Corrosion Resistance of Electroless Ni-Sn-P Plating Film」江 兵氏(関東学院大学)
・「DNA under attack:HS-AFM captures dynamic defense by protamine condensation against nuclease cleavage」楊 京格氏(京都大学)







