パーカー熱処理工業( https://pnk.co.jp/ )主催の「第18回表面改質技術研究会」が11月7日、東京都千代田区の日本工業倶楽部会館で開催、約200名が参加した。
当日はまず、パーカー熱処理工業の渡邊正高社長が「当研究会は2019年までは毎年開催されてきた。その後コロナ禍で中断していたが、皆さまからのご要望もあり、6年ぶりに開催する運びとなった。今回の講演のテーマは、環境保全もしくは環境にやさしい技術に焦点を当てている。その中で、最初の講演の熱処理分野では、CO2削減などに貢献している真空熱処理もしくは真空熱処理設備について最先端の技術を紹介すべく、当社のパートナーで世界的企業であるフランスのECM社から講演をいただく。二番目の講演は、将来のカーボンニュートラルに向けた究極のエネルギー源となるであろう水素および水素内燃機の講演を東京都市大学の三原雄司教授にいただく。最後の講演は、自動車分野を代表して、電気自動車(EV)を中心とした環境にやさしいクルマを手掛ける大手自動車メーカーのBYDより、最新のEV情報とEV技術情報に関して講演をいただく。これらの講演を最後までお聞きいただき、皆さまの会社および仕事の参考にしていただければ幸いに思う」と開会の挨拶を述べた後、以下のとおり講演が行われた。

「ECM furnace Innovation, Expanding Multi-Process Capabilities for advanced heat treatment.」Barthélémy Gros氏(ECM Technologies社)
本講演では、ユーザーニーズに応じて、浸炭、軟窒化、ろう付け、窒化、焼き戻し、焼結といった熱処理を1台の設備で行えるECMの量産向け低圧浸炭処理設備「ICBPフレックス」について、EV部品への適用事例や納入したラインの例などをまじえて紹介した。雰囲気ガスを用いず減圧下で浸炭処理を行うため、熱処理ラインからCO2ガスが排出されることがなく、地球環境にやさしい熱処理設備となっている。搬送室内に搬送ロボットが設置され、同一圧力で減圧制御された装置内をワークは、エアロックセル、加熱セル、油冷セル(ガス冷セル)とあらかじめ決められた処理条件のもと途切れることなく搬送され、連続生産が可能となっている。
講演ではまた、日本で最もニーズの多い装置サイズに対応するため、ワーク寸法1230×700×7mm、総重量800㎏を処理できる炉として、油冷方式の「ECO1277」を開発し、その初号機が本年日本で組み立てられ、パーカー熱処理工業の東松山工場に設置し、ユーザー企業の依頼で試作やテストを実施していることが報告された。ECO1277はコンパクト設計の装置ながらICBPフレックスの性能を全て備えている。ECOの名のとおり、既存の雰囲気炉と同じインフラを利用して初期コストを抑えつつ大気圧化での浸炭処理を低圧浸炭に切り替えられるという、経済的メリットと環境改善メリットを強調した。
「カーボンニュートラルに向けた水素内燃機関の研究開発動向と摩擦損失低減や耐久性向上へのアプローチ」三原雄司氏(東京都市大学)
カーボンニュートラル実現に向けて、NOx以外の有害物質(CO、HC、SOxなど)の排出がほぼゼロでCO2排出は基本的にはゼロの水素エンジンが、トラックや建機、船など電動化が困難な分野での利活用を目指す動きが欧州を中心に活発化状況を報告しつつ、水素エンジンの課題として、機関性能に関しては、高負荷域におけるNOxの排出量の増加や水素特有の薄い境界層などによる高冷却損失=熱効率の低下という課題を、耐久性に関しては、排気ガスまたはブローバイ中の水分による腐食やオイル劣化や、水素物性による水素漏洩や水素脆性への対策が必要という課題を提示した。
本講演では、シリンダ壁温を40℃から80℃まで変化させ、潤滑油中の水分量と成分変化を実験的に検証した結果、軽油と比較して水分量が17倍に増加し、油性状も変化することが確認されたことを報告。また、この凝縮水による潤滑油添加剤の劣化、水素特有の潤滑油性状と摩擦損失・焼付き特性の変化などの研究を紹介。さらに、エンジン油内に発生させたウルトラファインバブルが、クランクジャーナルとすべり軸受間の摩擦特性に与える影響をエンジン軸受試験機により検証し、エンジン油中のウルトラファインバブル密度とオイル粘度が摩擦低減効果に与える影響を調査した結果についても報告した。
「BYD の最新動向と日本での取り組み/BYD の取り組み バッテリー技術、SDV、新技術のご紹介」東福寺厚樹氏、三上龍哉氏(BYD Auto Japan)
BYDは1995年に中国でバッテリーを祖業としてスタート、ブランドミッションとして「イノベーションの力で、より良い暮らしと社会の実現へ」を、ブランドビジョンとして「地球の温度を1℃下げる」を掲げている。事業領域は、ITエレクトロニクス、新エネルギー、自動車、都市モビリティの四つで、100万人(その内、技術者が12万人)の従業員を抱え、400超の都市112カ国・地域の6大陸で世界展開している。2024年には427万台を売り上げ、世界自動車販売台数ランキングで6位となっている。2022年以降はガソリンエンジンのみの車両生産を中止したBYDの強みとしては、バッテリーEV(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の二刀流経営があり、販売比率はそれぞれ、約4割、約6割で、それらの総称である新エネルギー車(NEV)の累計生産が2025年10月に1400万台を達成した。
本講演では、日本法人が20周年を迎えており、すでに京都や札幌、横須賀などEVバスの多くの導入実績を持つことや、BYDのクルマづくりの哲学として「環境」、「安心」、「安全」があり、それらを具現化したリン酸鉄リチウムイオンバッテリーやバッテリー熱マネージメントシステム、さらには高速道路での高速走行中に路面の穴などをリープするアクティブサスペンション技術などの先進技術を紹介した。





