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日本溶接協会、表面処理技術セミナーの基礎編を開催

 日本溶接協会の表面改質技術研究委員会は11月6日、東京都千代田区の日本溶接協会 溶接会館 2階ホールで対面開催とオンライン開催からなるハイブリッド方式により、「表面処理技術セミナー(基礎編)」を開催した。当日は以下の講演が行われた。

「表面処理とは」仁平宣弘氏(仁平技術士事務所)…表面処理の基礎知識や各種表面処理の概略について解説。洗浄、研磨、ブラスト、めっき、塗装、熱処理といった基礎的な処理から、PVDやCVDなどのドライプロセスに至るまで、幅広い手法を体系的に整理した。講演では、真空環境下での膜形成やプラズマの利用原理を図解しながら、耐摩耗性や耐食性を高める具体例を紹介。さらに、表面処理が部品寿命や製品性能の向上に直結することを強調した。

「気相めっき(PVDとCVD)」仁平宣弘氏(仁平技術士事務所)…講演では、気相めっき技術としてのPVD(物理蒸着)とCVD(化学蒸着)の原理と応用を体系的に解説した。PVDでは真空中で金属を蒸発・スパッタリングし、硬質膜を形成する仕組みを示しながら、TiNやDLCなど工具・部品への応用事例を紹介。CVDについては、熱CVDによるTiC、AlO、ZrN、BNなどの膜の生成や表面粗さなどについて、また近年のプラズマCVDによる低温化技術までを分かりやすく説明した。さらに両技術の特徴を比較し、省エネルギーや長寿命化に果たす役割について解説した。

「表面熱処理」仁平宣弘氏(仁平技術士事務所)…金属表面の性質を高める表面熱処理について具体例を交えて解説した。まず高周波焼入れやレーザ焼入れなど、急速加熱によって表層のみを硬化させる方法を紹介。続いて、炭素や窒素を浸透させて強度を高める浸炭・浸炭窒化処理の仕組みを図解し、真空浸炭が脱炭や環境負荷低減に有効である点を示した。さらに、プラズマ窒化や軟窒化処理では、耐摩耗性や耐食性の向上、寸法精度の維持に優れることを説明。複合処理による長寿命化にも触れ、表面改質技術が自動車・機械部品の信頼性向上に不可欠であることを強調した。

講演する仁平氏
講演する仁平氏

「プラズマによる表面処理(基礎編)」節原裕一氏(大阪大学)…プラズマによる表面処理の基礎をテーマに、気体放電から成膜プロセスまでを体系的に解説した。同氏はまず、プラズマを構成するイオン・電子・ラジカルの役割を示し、放電による生成原理や非平衡状態での反応特性を説明。さらに、電子衝突によるラジカル生成やスパッタリングのメカニズム、イオンと固体の相互作用などを詳述した。近年注目されるマグネトロンスパッタやHiPIMSなど高密度プラズマの応用にも触れ、低温・高品質な成膜が可能となった技術的進展を解説した。

「溶射(基礎編)―プロセス制御性確立に向けて―」福本昌宏氏(豊橋技術科学大学)…溶融粒子を積層して厚膜を形成する溶射プロセスの原理と制御技術を詳述した。同氏はまず、粒子が基材に衝突し偏平・付着する現象を成膜の基本単位として位置づけ、その物理因子を体系的に整理。1994年に発見した「遷移温度」および「遷移圧力」の概念を紹介し、これらが皮膜密着性を左右する重要な制御指標であると説明した。さらに、粒子と基材の界面で生じる「動的ぬれ」の理解が溶射品質の鍵を握るとし、実際に自動車部品やNAS電池生産での社会実装事例を示した。

「コールドスプレー(基礎と応用)」榊 和彦氏(信州大学)…コールドスプレー(基礎と応用)をテーマに、低温で金属粒子を高速衝突させて皮膜を形成する技術の原理と展開を紹介した。同氏はまず、従来の溶射とは異なり、母材を溶融させない点が最大の特徴であると説明。粒子が音速を超えて衝突する際の「臨界速度」や接合メカニズムをシミュレーションと実験結果から解説した。さらに、銅・アルミ系皮膜の形成事例を通じて、酸化や熱影響を抑えた高密着膜の利点を示した。近年注目されるCSAM(Cold Spray Additive Manufacturing)にも触れ、航空宇宙やエネルギー分野への応用可能性を展望した。

「主たる表面処理法の比較とまとめ」仁平宣弘氏(仁平技術士事務所)…多様な表面処理法を体系的に整理し、それぞれの特性と適用上の留意点を比較した。同氏はまず、耐摩耗性・耐食性・装飾性などの向上を目的とする処理の選定には、材質や使用環境に応じた条件設定が不可欠であると指摘。続いて、焼入れや浸炭などの表面熱処理、めっき、溶射、PVD、CVDといった被膜形成法を取り上げ、処理温度や残留応力、膜の密着性などを具体例で示した。特にTi系硬質膜の高温酸化特性比較では、酸化による膜劣化の挙動を視覚的に解説し、プロセス選定の重要性を強調した。

表面処理技術セミナー(基礎編)のもよう
表面処理技術セミナー(基礎編)のもよう

 なお、12月8日は「表面処理技術セミナー(応用編)」を開催の予定。以下の内容で行われ、こちらで申し込みを受け付けている。

12月8日 表面処理技術セミナー(応用編)

・9:30~9:35「開会挨拶」日本溶接協会 表面改質技術研究委員会 委員長/信州大学 教授 榊 和彦氏
・9:35~10:25「概論(主たる表面処理法の比較とまとめ(基礎編の復習を兼ねて)」仁平技術士事務所 仁平宣弘氏
・10:25~11:15「PVD、CVDによる硬質膜の摩擦摩耗特性と密着性評価法」仁平技術士事務所 仁平宣弘氏
・11:25~12:15「DLC 膜 応用編、PVD による Cr 系膜 応用編」ナノコート・ティーエス 熊谷 泰氏
・13:15~14:05 「プラズマ窒化 応用編、高周波焼入れ 応用編」日本電子工業 大沼一平氏
・14:10-15:00 「プラズマによる表面処理(応用編)」大阪大学 節原裕一氏
・15:10~16:00 「ガス窒化・ガス浸炭 応用編(複合処理など)、プラズマCVDによるTi系膜 応用編」オリエンタルエンヂニアリング 木立 徹氏
・16:05~16:55「溶射(応用編)」エリコンジャパン 和田哲義氏
・16:55~17:00「閉会挨拶」日本溶接協会 表面改質技術研究委員会 幹事長/東京都立産業技術研究センター 理事 三尾 淳氏