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東研サーモテック、JMS 2025のリバースピッチで共創を呼び掛け

 東研サーモテックの川嵜隆司社長は10月31日、東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された「Japan Mobility Show(JMS)2025」のネットワーキングプログラムである、日本自動車部品工業会(部工会)加盟企業による10分間のリバースピッチに登壇、同社の強みと国内トップシェアのダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングの技術について説明しつつ、スタートアップ企業などとの共創を呼び掛けた。
 

リバースピッチに登壇する東研サーモテック・川嵜社長 mst 表面改質
リバースピッチに登壇する東研サーモテック・川嵜社長

 

 部工会オープンイノベーション(OI)研究会では、会員企業がOI活用によって外へと踏み出し新たな事業創出に向けて取り組むことを支援することで、さらなるサプライチェーンの強靭化を目指している。JMS 2025におけるリバースピッチは、部工会加盟企業のうちビジネス共創に挑む企業が、共創テーマについて発表するもの。

 東研サーモテックは1909年創業、1939年設立の金属熱処理とドライコーティングの専門業者で、硬さを自由自在に操る金属熱処理では85年の歴史を持ち全従業員の86%が厚生労働省管轄の国家資格である金属熱処理技能士を取得している。また、DLCコーティングの売上は国内トップを占め、金属熱処理とDLCコーティングとで量産を手掛ける唯一の企業と言える。DLCコーティングはグラファイト構造とダイヤモンド構造とのアモルファス構造を呈する炭素系被膜だが、同社はユーザーのニーズに合わせて成膜条件をコントロールすることで、グラファイト寄りからダイヤモンド寄りまで、さまざまなDLCコーティングを成膜する技術・ノウハウを有する。

 硬度が2000HV~(鋼の10倍以上)、膜厚が2μm以下(札の1/50)、摩擦係数が0.15程度と潤滑油なしでの良好な滑りが得られることから、これまでDLCコーティングが活躍してきた分野は主に硬い、薄い、滑るという3分野で、設計担当が困ったときにDLCコーティングが重宝されてきた経緯がある。自動車のダウンサイジングと部品にかかる負荷の増大という背反する二つの要求を両立するのにDLCコーティングが利用されることが多い。例えばディーゼルエンジンのインジェクターでは、小指の上に象が載るくらいの大きな圧力がかかる部品のため、金属熱処理とDLCコーティングによって、その圧力に耐える表面改質を行っている。

 JMS 2025の展示の重要なテーマの一つである燃料電池車や水素プラントなど水素社会に対してDLCコーティングは、金属の結晶構造に侵入し脆性破壊を引き起こす水素ガスのバリア特性があり、水素社会の課題に貢献できる。

 また、労働人口の不足によりロボットの導入による自動化が進む中で、多関節ロボットの関節など可動部の摩耗を減らしつつ低摩擦にしたいという課題に対し、被膜の硬さによって自身も相手材も減らさないという「DLCトライボロジー」は、メンテナンスフリーによる長期の自動化に対して有効と見られる。

 まだあまり注目されていない同社のDLCコーティングの特性として、被膜が硬くかつ密着力が高いことから手術用ケーブルの保護膜として適用されている。捻る、曲がるなどの作用が加わるケーブルに被覆した同社のDLCコーティングは、長期間はく離することがない。

 川嵜社長は、「当社はお預かりした部品の表面を硬化して納めることが主業務のため、新しい製品を生み出したいと思ってもマーケティング・素材・加工・販売という四つのノウハウがない。熱処理とコーティングに関してはプロフェッショナルと自負しているものの、他のノウハウに乏しい。この機会にパートナーと力を合わせて新しい製品を世に生み出したい。今後DLCコーティングの適用を考えたいのが、FCV・水素関連でガスバリア特性、人手不足対策としての自動化のためのロボットの関節など摺動部品で、そこではDLCトライボロジーが貢献できる。また、地球上では考えられない過酷な環境に置かれる宇宙機器にも、DLCコーティングは適用できる。さらに医療関連では、カーボン材料で金属アレルギーを一切引き起こさないことから人体に無害であり、手術用ケーブルに限らずビジネスチャンスはまだまだ多い。今回のピッチで興味を持ってもらえた皆さまに共創の機会をいただき、DLCコーティングの特性を最大限に生かした新しい部品、新しいビジネスを創出できれば、大変うれしい」と、参加したスタートアップ企業など他企業との共創を力強く呼び掛けた。