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日本溶接協会、表面処理技術セミナーの応用編を開催

 日本溶接協会の表面改質技術研究委員会は12月8日、東京都千代田区の日本溶接協会 溶接会館 2階ホールで対面開催とオンライン開催からなるハイブリッド方式により、「表面処理技術セミナー(応用編)」を開催した。当日は以下の講演が行われた。

講演のもよう
セミナーのもよう

「主たる表面処理法の比較とまとめ」仁平宜弘氏(仁平技術士事務所)…表面処理の主要手法を改質形態・温度・材料適性の観点から体系的に整理した。洗浄・研磨から被覆、拡散、表面熱処理までを比較し、残留応力が密着性や欠陥発生に大きく影響する点を示した。また、TiN、CVD膜、浸炭・窒化などは処理温度と硬化層組織の違いが機能に直結し、PVD/CVDでは付きまわり性・膜質・密着性の差異を解説した。最後に材料・形状・変形リスクを踏まえた処理選定指針を提示した。

「PVD、CVDによる硬質膜の摩擦摩耗特性と密着性評価法」仁平宜弘氏(仁平技術士事務所)…PVD・CVD硬質膜の摩擦摩耗特性と密着性評価を整理した。TiNを基軸とした膜種の多様化と用途適性を示し、摩擦試験では相手材凝着や環境条件が膜挙動に大きく影響する点を説明した。DLCは低摩擦で環境依存が小さいことが強調された。密着性評価ではスクラッチ試験によりLc値を判断し、膜厚・基材硬さ・膜種ごとの破壊形態の違いを解説した。実用上、評価法選定と膜構造の理解が重要とされた。

講演する仁平氏
講演する仁平氏

「DLC 膜 応用編、PVD による Cr 系膜 応用編」熊谷 泰氏(ナノコート・ティーエス)…DLC膜とCr系PVD膜の特性と応用を中心に解説した。DLC膜は固体潤滑性、耐摩耗性、耐凝着性、耐食性、赤外透過性、電気特性など多機能性を備え、下地Cr系層による膜構造制御が重要とされた。モビリティ部品、切削・塑性加工工具、再生可能エネルギー、民生・医療など幅広い分野で実用化され、ピストンピンでは焼付き防止と混合潤滑領域拡大が示された。一方、Cr系PVD膜はプラスチック成形金型の離型性向上、型汚れ抑制、耐食・耐摩耗性付与に有効で、FIB断面観察により組織制御の重要性が示された。DLCとCr系膜はいずれも成形・加工分野の課題解決に寄与する技術であるとした。

講演する熊谷氏
講演する熊谷氏

「プラズマ窒化 応用編/高周波焼入れ 応用編」大沼一平氏(日本電子工業)…高周波焼入れとプラズマ窒化の特徴と応用が整理された。高周波焼入れでは誘導加熱による急速加熱・急冷が可能で、表面に大きな圧縮残留応力が付与され高い耐摩耗性・疲労強度が得られることが示された。また、デジタルツインや金属3Dプリンタを用いたコイル設計により、変形抑制や冷却効率向上など最新の高度化事例が紹介された。プラズマ窒化ではイオン衝撃による表面清浄化と化合物層制御が特徴で、化合物層厚さや粗さをガス組成で調整可能である。さらにプラズマ窒化とPVDを組み合わせた複合表面改質により、TiNやDLC-Si膜の密着性が約2倍向上する事例が示され、金型・工具の高性能化に有効であるとした。

「プラズマによる表面処理(応用編)」節原裕一氏(大阪大学)…大面積プラズマ源の開発から酸化物半導体TFT形成、異種材料接合まで、多様な応用へ展開するプラズマ制御技術が紹介された。低インダクタンスアンテナを用いた高周波ICPは低ダメージ・高密度のプラズマ生成を可能とし、メートル級基板に対して均一なプロセスを実現する。また、a-IGZO TFTでは、プラズマ支援スパッタとOHラジカルを利用した低温アニールにより、従来の熱処理を用いずに移動度40cm2cm2/Vs級の高性能を達成した事例を示した。さらに大気圧非平衡プラズマジェットによる高密度ラジカル供給技術や、有機–金属の異材接合技術も紹介し、プラズマが材料改質とデバイスプロセス革新の基盤技術となることが示された。

「ガス窒化・ガス浸炭 応用編(複合処理など)、プラズマCVDによるTi系膜 応用編」木立 徹氏(オリエンタルエンヂニアリング)…ガス窒化・浸硫窒化およびガス浸炭、さらにPCVDによるTi系膜の特徴と応用を整理した。窒化ポテンシャルKNを水素センサで精密制御することで、化合物層構成や拡散層深さを安定化でき、窒化+酸化による耐食性向上も示された。ガス浸炭では滴注式を用いたCO2排出削減と品質維持が確認された。PCVDではガス原料により付きまわり性と密着性に優れ、欠陥の少ないTiN/TiAlN/TiAlBN多層膜を形成できる点が特徴である。摩擦・耐酸化・耐溶損試験ではPCVD膜がPVD膜を上回る性能を示し、冷間鍛造金型やアルミダイカスト金型への適用で寿命向上効果が報告された。

「溶射(応用編)」和田哲義氏(エリコンジャパン)…溶射技術の原理から産業応用までを体系的に整理した。溶射は材料を溶融・加速して基材へ衝突・固化させる表面改質法であり、ラメラ構造・物理的結合・気孔を特徴とする。前処理、溶射、後処理、品質管理を組み合わせる総合プロセスであり、粉末フレーム、アーク、プラズマ、HVOF、減圧プラズマなど多様な方式が用途に応じて使い分けられる。材料は金属・サーメット・セラミックからアブレーダブルまで幅広い。応用は航空・発電・自動車・製鉄・紙パルプ・印刷・半導体など多岐にわたり、耐摩耗・耐食・遮熱・隙間調整などの課題解決に寄与する。