東研サーモテック( https://tohkenthermo.co.jp/ )は本年4月、ドライコーティング技術の開発・増強の拠点であるイノベーション事業部を発展的に解消し、「ハイエンド市場創出部」へと改称・再編した。既存技術で迅速に応答する体制を強化しつつ、充実した量産成膜設備を保有する量産部隊の24時間運用支援により、試作稼働時間を拡大。案件増加に伴うリソース逼迫を回避しつつ、外部活動(市場探索・ネットワーク構築)を専任化することでフットワークを軽くし、ハイエンド領域へのチャレンジを加速していく狙いだ。具体的には、トライボロジー特性をベースに、+αの機能を組み合わせて、各分野の課題に合わせた表面改質・膜構成・素材の提案へと展開していく。
攻略していくハイエンド市場である、宇宙、医療、水素関連、食品の4分野のうち、宇宙領域でのドライコーティングの適用展開を進めるマーケティング活動の一環として、同社は5月27日~29日、東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された「SPEXA 2026-【国際】宇宙ビジネス展」に出展し、ブースには同社のドライコーティング技術に関心を寄せる300人超の来場があった。
ここでは、同社 ハイエンド市場創出部 チーフストラテジスト 髙橋 顕氏に話を聞いた。

新たなビジネス構想:バリューネットワーク型
同社は、DLCをはじめとするドライコーティングのあまり利用されていなかった特性を生かして宇宙領域などのハイエンド市場を攻略していく考えだが、新たな市場において、ものの価値を高める、製品の価値を高めるにはDLCだけ、同社だけで完結できるものではない。共創パートナーがそれぞれの保有する技術を出し合って、新しい価値を一緒になって作っていく必要がある。同社は表面改質のプロではあるが、加工や素材、マーケティングリサーチ、販売などのそれぞれのプロと共創していくことで、価値向上につなげることが可能になる。
そこで同社では、自動車メーカーや自動車部品メーカー向けのビジネスモデルである「サプライヤーチェーン型」から、企業が顧客やパートナーと連携してデータと技術を活用し相互に価値を創出し合う関係性・仕組みを作る「バリューネットワーク型」への拡張を呼びかけている(図2)。

ドライコーティングの研究開発(R&D)拠点として将来的な技術リソース獲得と販路開拓を目指すオープン・イノベーション・センター(O・I・C)はまさに共創の場なので自動車メーカーや自動車部品メーカーを主軸としてさまざまな業界を招待して議論を深めているほか、表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会などの研究会や、SPEXA(スペクサ)-【国際】宇宙ビジネス展-など各種展示会などを利用して、共創の働きかけを行っている。
同社では、パートナー企業と共創しながら宇宙領域などの新しいマーケットを形成しつつ、その中でDLCおよびドライコーティングの技術を発展させ適用を進めることで、市場拡大につなげていく。


宇宙領域の技術戦略:真空環境での被膜の選択と設計
耐摩耗性・摺動特性に優れる被膜としてはダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングの実績が多いが、宇宙環境である真空中では、DLC本来の性能が出にくいという課題がある。同社では、二硫化モリブデン(MoS2)系などの選択肢も考慮し、添加元素やDLCの構造の見直しで真空トライボに適応していく。
中でも、地球低軌道(高度200~700km)で太陽の紫外線で分解された高エネルギーの原子状酸素が高速で宇宙機器に衝突し構造材を酸化・劣化させる問題があり、耐原子状酸素コーティング技術の開発が求められている。真空中での摺動特性と耐摩耗性のトレードオフのあるDLCに+αを加えて改善を図るなど、低軌道環境での耐摩耗・耐酸化特性と低摩擦特性の両立を狙う。

ハイエンド市場でのセオリー拡張の必要性
今までの自動車や金属加工の分野ではドライコーティングの既存のセオリーで採用がなされてきたが、宇宙領域で対象となる真空環境などでは従来のセオリーが通用しにくい。そのため、対象固有の新セオリーを構築し、評価法と閾値を個別に設計することで、ドライコーティング適用による成果の見極めが可能になる、と同社は考える。
自動車分野で蓄積された技術をベースに、対象アプリケーションに合わせて追加機能を提案するとともに、場合により新規開発を実施。真空中でのDLCの耐摩耗性と低摩擦性のようなトレードオフ設計で、最適点を探っていく。
ケミカル反応が複雑な分野で最適なセオリーを確立していく上では、実に多くの成膜実験と評価が必要となるケースが多い。そこで、添加する元素の種類や比率を絞り込んで開発の効率を改善するためのアプローチとして、シミュレーション・AIなど情報技術も積極的に取り入れた成膜プロセス最適化を検討していきたい。
オープン・イノベーションと連携戦略
一社単独、数社での技術力には限界があり、分野横断のコミュニケーションで技術リソースを協調的に活用していく必要がある。そのため同社では、同社が維持会員として活動する日本トライボロジー学会や表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会など、多くの産業が集う場での活動と交流を重視している。
同社 ハイエンド市場創出部 チーフストラテジスト 髙橋 顕 氏は、「当社のオープン・イノベーション・センターで確立した技術情報の公開や掲示などにより、一歩進んだ議論の場を提供し、ハイエンド市場創出につながるようなネットワークの構築を促進していく。直接のビジネスにつながらない場合でも、技術リサーチや専門家への橋渡し、開発の方向性が定まるまでの支援を行う。問い合わせや共創の機会を歓迎している」とハイエンド領域における共創を呼び掛けている。





