「ナノ科学シンポジウム2026(Nano Scientific Symposium Japan 2026:NSSJ2026)」が10月29日、東京都文京区の東京大学 浅野キャンパス 武田ホールで開催され、約90名が参加した。主催はナノ科学シンポジウム実行委員会(実行委員長:高井 治氏(名古屋大学名誉教授、先端材料研究機構 代表理事、表面・超原子先端材料工学研究所 代表理事・所長)、副実行委員長:金 鍾得氏(パーク・システムズ・ジャパン社長))で、協賛は表面技術協会、日本材料科学会、日本MRS、伊藤忠マシンテクノス、日本電子、後援はメカニカル・テック社、日刊工業新聞社、日本顕微鏡学会。

2020年から走査型プローブ顕微鏡(SPM)ユーザーシンポジウムとして開催されてきた同シンポジウムは、前回より、SPMの幅広い応用と技術に焦点を当てるとともに、複合的な表面解析手法を用いた材料科学、半導体、ライフサイエンス分野の研究情報を共有・交換する場へと拡大している。
材料・表面技術はさまざまな産業に不可欠で、近年求められる表面改質層の厚さはnmオーダーに達して、さらに微細化している。これに伴い、表面を計測・解析する手法も発展を続け、中でも、1982年に発表された走査型トンネル顕微鏡から発展したSPMは、原子を一つひとつ観察・解析できる技術として、ナノレベルの表面計測・解析を支える基礎技術の重要性を増している。
今回のシンポジウムでは、MEMS技術、表面分析・解析技術、表面技術などの分野で活動する登壇者による講演を通じ、材料・表面技術とナノテクノロジーとの共創や、ナノテクノロジー支援の取り組みを発信することを目指した。
当日はまず、高井 治 実行委員長が開会の挨拶に立ち、「本シンポジウムは、2020年12月に関東学院大学 関内メディアセンターにて第1回を開催して以来、東京大学等での開催を経て、今回で第7回目を迎える。メインスポンサーであるパーク・システムズ・ジャパンの長年にわたる多大なる支援に対する感謝したい。さて、SPMは1982年にIBMで発表され、真空を必要とせず大気中で原子1個1個を観察できる画期的な技術となり、その後、原子間力顕微鏡(AFM)やケルビンフォース顕微鏡(KFM)などへ進化し、現代の表面科学やナノ物性評価に不可欠な基盤となっている。私の研究室では、パーク・システムズ社が米国にあった初期に、日本国内2台目となる同社のAFMを導入、位置制御性と操作性が極めて優れ、他社製と比較しても使い勝手が良いことから、研究室で長年愛用するなど、パーク・システムズ社とは非常に縁が深い。本シンポジウムは、AFMや表面観察のみならず、表面科学全般、先端材料、半導体に関する最先端の研究成果を広く議論する場。また、講演会、ポスター発表ともに、活発な議論をお願いしたい。セッション終了後の懇親会にもご参加をいただき、交流を深めていただきたい」と述べた。

「午前の部」では、4件の講演が行われ、最初に、東京大学の高井まどか氏が「双性イオンポリマーで創る抗汚染・抗菌表面」と題して講演。双性イオンポリマー膜が、細菌付着抑制、バイオフィルム形成抑制の機能を持つことを示した。
続いて、東海光学の杉浦宗男氏が「高性能光学薄膜を支える表面・界面の重要性」をテーマに登壇し、各界面で反射・透過した光の多重干渉により機能が鰓エル光学薄膜フィルターなど高性能光学薄膜の性能向上において、基板表面・膜界面の状態を適切に評価し設計・製造に反映することが重要性だと総括した。
その後、日産アークの藤野渚彩氏が「全固体電池における劣化解析技術」について講演した。独自の大気非暴露切断/切削加工とⅩ線光電子分光法(XPS)による化学状態分析、走査型広がり抵抗顕微鏡法(SSRM)による微小領域の抵抗分布評価を組み合わせることで、硫化物系全固体電池のサイクル劣化の伴う正極層内の固体電解質の化学状態変化および微小領域の抵抗分布変化を評価できることを示した。
さらに、産業技術総合研究所(AIST)の山岸裕史氏が「全固体電池内部のインピーダンス分布を可視化するAFM計測技術」を紹介。電気化学インピーダンス分光法(EIS)に対応した広い周波数範囲における走査型インピーダンス顕微鏡(SIM)測定を用いて、全固体電池内部のインピーダンス分布の可視化が可能であることを示した。
「午後の部Ⅰ」では、2件の講演が行われ、最初に、大阪大学の森勇介氏が「GaN結晶が拓くグリーン・デジタル社会」と題して基調講演を実施。Naフラックス法、アモノサーマル法、OVPE法などの適用と産業界との共創によって窒化ガリウム(GaN)結晶の大口径化・高品質化・量産化に成功しつつあり、GaNの本来の能力をデバイスで引き出すことによってグリーン・デジタル社会の実現に貢献できるとした。
続いて、東北大学の中川勝氏が「有型成形加工のナノインプリント技術が拓く半導体素子・人工光学素子」について講演。先端半導体素子の製造や人工光学素子メタオプティクスの開発、情報通信・光電融合への応用の検討が進む光ナノインプリントに関して、マイクロプリント-ナノインプリント工法、一桁ナノサイズの位置合わせ技術、人工反応場メタサイトなどの研究が紹介された。
「午後の部Ⅱ」では、Park Systems(韓国)より2件の講演が行われた。まず、Byoung-Ho Lee氏が「Recent Trends in Semiconductor Device Technology and the Role of AFM」と題し、2Dデバイスから3Dデバイスへの移行が進む半導体デバイス技術の最近の動向と、半導体デバイス・プロセス開発における計測・検査(MI)技術において、プロファイリングおよびAFM技術の役割がますます重要になってきていると述べた。
続いて、Charles Kim氏が「Introducing NX1: A Compact AFM for Atomic-Resolution Imaging」と題し、常温常圧下での原子格子の高解像度イメージング用に設計された小型AFM「NX1」を紹介。堅牢でコンパクトな構造と低熱膨張材料により機械的ノイズ・熱ドリフトを低減し安定した測定を実現。また、プローブの容易な交換、簡単なレーザーアライメントなどで使い勝手が向上していると説明した。

一方、午後の部の講演が始まる前に20件のポスター発表が行われ、それぞれ活発な質疑応答がなされ、参加者全員による投票と採点がなされた。

全講演終了後にはポスター発表の表彰式が行われ、最優秀賞には、東京工業高等専門学校の佐藤魁星氏による「周波数原子間力顕微鏡を用いたせん断場におけるイオン液体中固液界面構造と横力同時計測」が、優秀賞2件には、東北大学の山川好汰氏による「紫外線レーザーリソグラフィで作製したサブマイクロシリコン椀形のAFMイメージング」と日本大学の上田槙之介による「アモルファス炭素膜の成膜速度と価電子帯構造の温度依存」がそれぞれ選定され、表彰された。

金 鍾得氏(パーク・システムズ・ジャパン)、高井 治 実行委員長、
山川好汰氏(東北大学)、佐藤魁星氏(東京工業高等専門学校)、上田槙之介氏(日本大学)
閉会式では、NSSスペシャルアドバイザーの柳内克昭氏が挨拶に立ち、長時間にわたる参加者の聴講に謝意を示すとともに、ポスター賞の優秀賞・最優秀賞を受賞した発表者を祝福した。また、多忙な中、遠方から参加した講師陣や、開催準備や運営に尽力したスタッフに感謝を述べた。全日程を滞りなく終えられたことへの安堵と関係各位への謝意を表明した。次回については、今回と同じ会場で同時期に開催する意向を示し、講演発表やポスター発表への積極的な挑戦を参加者に呼びかけた。






