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SEMICON Japan 2024

 

産総研、大気圧雰囲気中の機能性薄膜の原子・分子レベルの欠陥などを評価する装置

 産業技術総合研究所は、実際の環境のように制御した大気圧雰囲気中の機能性薄膜の原子・分子レベルの欠陥や空孔、細孔などのすき間を陽電子寿命法で評価する環境制御陽電子プローブマイクロアナライザーを開発した。

 この装置は、電子の反粒子である陽電子を電子線形加速器を用いて真空中で発生させ、その速度を調節しながら高輝度の短パルス集束ビームにして、真空窓から大気中に取り出す。このビームを試料表面に照射、表面近くの限られた領域に陽電子を打ち込み、陽電子やポジトロニウムが試料中で消滅するまでの時間(寿命)を測定して、試料内部のすき間を評価する。この装置によって、相対湿度を制御した窒素雰囲気下の厚さ数百ナノメートルの高分子薄膜中の分子間のすき間を非破壊的に評価できた。

 原子・分子レベルの空間構造は各種薄膜材料の特性の起源となるが、今回開発した技術により、実際の環境下にある薄膜材料の空間構造が解析できるようになった。ナノテクノロジー分野などで利用される機能性薄膜の環境応答性能の評価技術向上への貢献が期待される。現在、測定をより高効率化するために陽電子発生源の高強度化に関する技術開発を進めている。今回開発した技術をさらに高度化し、共同利用施設として実用化を目指す。

環境制御陽電子プローブマイクロアナライザー(左)と陽電子大気取り出し法の概略(右)環境制御陽電子プローブマイクロアナライザー(左)と陽電子大気取り出し法の概略(右)

 材料の機械的強度、電気的絶縁性、分子透過性などのさまざまな特性は、材料を形作る元素の組み合わせだけでなく、原子・分子のすき間、すなわち原子・分子スケールの空間(ナノ空間)構造にも左右される。また、ナノテクノロジー分野では、各種素材の表面処理や薄膜形成などによって、目的とする特性を付与して機能性材料とすることが多く、これら材料の研究開発には表面近くの状態を精密に解析することが重要である。物質中の陽電子・ポジトロニウム寿命はナノ空間の大きさと相関するため、寿命を測定することで、欠陥や空孔、細孔といったすき間の大きさを評価できる。この原理に基づき、表面や薄膜の評価に適した低速の陽電子ビームを用いる陽電子・ポジトロニウム寿命測定装置が開発されているが、一般的に陽電子ビームは高真空チャンバー内で生成されるため、大気圧雰囲気下の材料を直接評価できなかった。これまでに各国の研究機関で陽電子ビームを大気中に取り出す技術の開発が試みられてきたが、陽電子を表面近くや薄膜中の適切な深さに留めるために必要な陽電子の低速化ができなかった。そのため、実際の環境で薄膜材料を評価できるように低速の陽電子ビームを大気中に取り出し、寿命測定する技術が求められていた。